業界レポート10月号② Vol.83
Ⅱ 中古車流通のあれこれ

本レポートでは、オークネット会員様のビジネスのお役に立てますよう、大きなターニングポイントに差し掛かっている自動車産業にフォーカスした情報をタイムリーにお届けします。
執筆・編集:特定非営利活動法人 自動車流通市場研究所 理事長 中尾 聡
「中古車販売における総額表示制度の現状と課題」
2023年10月1日に導入された「支払総額」表示制度は、中古車販売における不当表示を是正し、消費者保護を強化するための重要な改革でした。しかし、導入から3年が経過した現在も、「支払総額では購入できない」との苦情が続き、制度の実効性には課題が残っています。本年8月31日、自動車公正取引協議会は、モニタリング結果を踏まえ、この問題が確認された14社に対し「改善要請」を実施しました。今回はこの改善要請を通じて、制度が直面している現実を整理し、世界最高水準の中古車流通を守るための方向性を考察します。
世界最高水準の中古車流通が直面した“総額表示の初期課題”
日本の中古車流通は、世界のどの国と比較しても極めて高い品質と透明性を備えています。これは、業界の先輩方が「価格と品質の透明化」を長年にわたり実践し、第三者機関による中立公正な検査制度や、ポスセリ方式によるオークションシステムを構築してきた成果です。レモンの法則を知らずとも、情報の非対称性を克服するための仕組みを自ら作り上げ、世界に冠たる流通モデルとして海外にも移植してきました。
しかし、2023年10月に導入された「支払総額」表示制度は、この成熟した流通に新たな課題を突きつけました。制度導入時に筆者が発信したレポート(Vol.47)では、業界の信頼失墜を回復するためには、総額表示を“逆風を追い風に変える”姿勢が不可欠であると指摘しました。ところが、導入から半年後の2024年5月にリリースしたレポート(Vol.54)では、依然として「保証なしと表示されていたのに保証への加入を強要された」「オプションを外せず支払総額が大幅に増えた」「最低限必要な諸費用が含まれていなかった」など、典型的な苦情が多数寄せられている実態を紹介しました。
制度の趣旨である“支払総額=購入時に最低限必要なすべての費用を含めた価格”が守られていないケースが散見され、総額表示の初期段階で、価格透明化の限界が露呈したと言えます。中古車という商品特性の難しさが、制度の運用に大きな影響を与えていることが浮き彫りになりました。

難しい商品を扱う業界が求められる“原点回帰”と透明化の再徹底
2025年5月に自動車公正取引協議会が実施した第4回モニタリングでは、大手中古車専業店や未使用車専門店を含む20社48店舗を対象に商談の実態が調査されました。その結果、「支払総額に含まれないパック商品の強制」「保証やオプションの執拗な購入要請」「車庫証明手続代行費用の不適切な請求」「諸費用に含められない費用の計上」など、制度の根幹を揺るがす問題が多数確認されました。改善要請を受けた事業者の中には、過去にも同様の指摘を受けていたにもかかわらず改善が見られないケースもあり、制度の実効性に疑問が生じていました。
そして2026年8月31日、協議会は最新のモニタリング結果を踏まえ、14社に対して正式に改善要請を行いました。特に、支払総額に含まれないオプション費用の強制、管轄内登録にもかかわらず「管轄外手続代行費用」を請求する事例、ETCセットアップ費用を諸費用に含めて外せないと説明する事例、さらには「納車準備費用」を諸費用として請求する事例など、制度の趣旨を逸脱した行為が繰り返されていることが問題視されています。
これらの問題は、ジョージ・アカレフ氏のレモンの法則が示す「情報の非対称性」が再び市場に影響を及ぼしていることを示しています。中古車は新車と異なり、一度使用された商品であるため、品質のばらつきが大きく、情報の透明化が欠ければ市場全体の質が低下します。だからこそ、世界最高水準の流通を守るためには、制度の改善要請を“業界の原点に立ち返る機会”として捉える必要があります。
第三者機関による車両認定や、公正な保証制度の導入は、情報の非対称性を解消し、優良事業者が正当に評価される市場を維持するための重要な仕組みです。制度導入から3年が経過した今こそ、業界全体で現実を直視し、透明性の再徹底に取り組むことが求められています。
ここがPOINT!
日本の中古車流通は、価格と品質の透明化を徹底してきた結果、世界最高水準の仕組みを築いてきました。しかし、総額表示制度の運用では不当表示が続き、情報の非対称性が再び市場に影響を及ぼしています。制度の改善要請を“原点回帰の機会”と捉え、第三者認定や適正な保証制度を活用し、価格と品質の透明化を再徹底することが、優れた流通を未来へつなぐ鍵となります。
2026年10月号
