業界レポート11月号① Vol.84
Ⅰ 自動車流通のトレンド

本レポートでは、オークネット会員様のビジネスのお役に立てますよう、大きなターニングポイントに差し掛かっている自動車産業にフォーカスした情報をタイムリーにお届けします。
執筆・編集:特定非営利活動法人 自動車流通市場研究所 理事長 中尾 聡
自動車リース市場の光と影
~法人成熟と個人踊り場の現在地~
自動車リース市場は、法人・個人ともに「所有から利用へ」という潮流を背景に保有台数を伸ばしてきました。しかし足元では、法人リースは成熟期に入り、個人リースは踊り場に差し掛かるなど、市場の勢いに変化が見られます。さらに個人リースでは、契約満了車両の増加に伴い顧客トラブルが急増し、商品の複雑化や説明不足が課題として浮上しています。今回は自動車リース市場における、法人・個人それぞれの現状と課題を整理し、今後の方向性を考察します。
法人リース~成熟市場と代替需要の停滞~
法人リース市場は、企業の経費削減や車両管理の合理化ニーズを取り込み、長年にわたり安定した成長を続けてきました。大企業を中心にリース導入は広く浸透し、車両管理のアウトソース化は一般的な経営判断として定着しています。
しかし、近年は新規契約の伸び率が鈍化し、市場は成熟期へ移行しています。日本自動車リース協会連合会(JALA)によれば、2026年7月まで16カ月連続でリース契約台数が前年実績を下回る状況が続いています。背景には、法人リースで最も多い5年リースの代替母体となる新車供給が、コロナ禍で長期間低水準だったことがあります。新車不足により代替サイクルが遅れ、法人リースの更新需要が抑制されている構造が明確です。
成熟化の要因はこれだけではありません。車両価格が上昇し、残価リスクの不透明感が増すことで、リース会社側の採算管理が難しくなっています。さらに、2027年に適用予定の新リース会計基準により、企業が契約内容を見直す動きが出る可能性もあります。
こうした環境下で、法人リース市場は「量の拡大」から「質の維持・改善」へと軸足を移しつつあります。既存顧客の囲い込みや車両管理サービスの高度化、テレマティクスを活用した運行管理支援など、付加価値の提供が競争力の源泉となっています。
自動車保有台数とリース保有台数の比率

個人リース ~成長から踊り場、そして構造的トラブルへ~
個人リース市場は、若年層の「所有より利用」志向や、シニア層の車両管理負担の軽減ニーズを取り込み、近年急速に拡大してきました。2015年に15万台だった保有台数は、2026年3月末には75万台へと5倍に増加し、メーカーの参入や広告宣伝の強化により一般認知も広がりました。
しかし、契約満了車両の増加に伴い、顧客とのトラブルが急増しています。国民生活センターへの相談件数は2021年度の322件から2025年度には618件へ倍増し、2026年度も前年を上回るペースで推移しています。市場拡大と比例するように、契約内容の理解不足によるトラブルが顕在化しているのが現状です。特に多いのが、「ローンと同じ感覚で契約したが、仕組みが異なっていた」という認識の齟齬です。走行距離制限、中途解約の違約金、そして契約満了時の残価精算など、誤解が生じやすいポイントが多く存在します。
さらに近年は、商品そのものが複雑化しています。サブスクリプション型商品は基本的にリースと同じ仕組みですが、フリート保険が付帯されるなど構造が多様化し、説明項目が増えています。商品体系が複雑化するほど顧客が十分に理解しないまま契約するリスクが高まっています。
こうして商品が複雑化する中では、販売現場の知識不足も課題です。残価設定ローン、独自リース、サブスクなど商品が増え、営業スタッフがすべてを正確に説明しきれないケースが見られます。さらに、近年はインターネット型の商品が増え、対面での説明機会が減ることで誤解が生じやすくなっています。
こうした状況を受け、JALAは2026年3月に啓発文を通達し、広告表示や説明項目の適正化を求めています。個人リースは普及率が依然として低く、中長期的な成長余地は大きい市場ですが、信頼性確保が今後の成長の前提となります。
ここがPOINT!
法人リースは成熟、個人リースは踊り場に加え、商品の複雑化と説明不足によるトラブル増加という構造的課題が顕在化しています。しかし、法人リースは新車供給の停滞により代替需要が抑制されているものの、安定した需要基盤を持ち、個人リースの拡大と合わせて市場全体の成長余地は依然として大きいと言えます。特に個人リースでは、メリットだけでなくリスクや精算ルールを丁寧に伝えることが市場の信頼性を高める鍵となるでしょう。
2026年11月号
