業界レポート10月号 Vol.71
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- 9月30日
- 読了時間: 11分

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大きなターニングポイントに差し掛かっている自動車産業にフォーカスした情報をタイムリーにお届けします。
執筆・編集:特定非営利活動法人 自動車流通市場研究所 理事長 中尾 聡
▼目次
【自動車関税の引き下げが確定したが、はたして25年新車市場の見通しは!?】
【2026年1月から施行される改正行政書士法の影響について】
【近年際立つ、中古軽自動車輸出需要の高まり】
1 自動車流通のトレンド
【関税の引き下げが確定したが、はたして25年新車市場の見通しは!?】
トランプ米大統領は9月4日、関税引き下げに関する大統領令に署名しました。これでようやく、27.5%であった自動車関税が15%まで引き下げられます。しかし、3月以前は2.5%でしたので、その時点から考えれば12.5%の大幅な引き上げとなります。今回は改めて、この引き上げが新車市場へ与える影響と通年の見通しについてレポートします。
【自動車(新車)輸出】
4月3日以降、米国向け車両については、関税が従来の2.5%から27.5%に引き上げられましたが、4月から7月までの4ケ月間の同国向け台数実績としては、前年比で99.67%でしたので、ほぼ前年並みと健闘しており、今年7月までの累計実績も101.74%と前年を上回っています。しかし、自動車メーカー各社は、引き上げによるマイナス分を自社で吸収しているようで、その結果、収益性は悪化しています。今回15%に引き下がり、また8月7日以降に27.5%で輸出された過払い分(12.5%)は払い戻しされるので、これ以上、悪化することはなく、収益性は今後改善されますから、通年の米国向け台数も前年をわずかでも上回って推移することが予想されます。自動車輸出全体においての米国向けは常に3割以上を占める主要な仕向国なので同国の変動は大きく影響を及ぼしますが、これから台数的な影響は少ないと思われるので、全体でも前年並みの425万台前後を維持するのではないでしょうか。ただ一点、気のなるのは米国の関税とは関係なく、欧州地域への台数低迷です。直近では回復傾向にありますが、これがさらに悪化するようであれば、この見通しが崩れる可能性があります。
輸出台数25年7月までの実績と通年の見通し

【国内新車販売】
新車販売に関しては、昨年前半が認証不正の問題で出荷停止になっていたこともあって、その反動増から、今年に入り4月までは二桁伸長で推移していました。しかし5月以降はブレーキが掛かりはじめ、7月からは2ケ月連続で前年割れとなっています。これは反動増の効果が薄れたこともありますが、物価が高騰し、消費者の購買意欲が冷え込んできていることが影響していると思われます。さらにこれに追い打ちを掛けたのが、新車価格の値上げです。今年に入って、多くの車種が値上げされ、車種にもよりますが、5万~15万円程度の値上げが確認されます。これは半導体など原材料の高騰や、物流コストの上昇が一因かと考えられますが、値上げラッシュとなったのは、やはり関税の影響によって、自動車メーカー各社が事業収益を大幅に落とし、やむを得ず価格に転嫁せざるを得なかったことがトリガーになったのではないでしょうか。今後も値上げされる車種は多くなると予想され、新車販売は伸び悩みますが、前半の貯金分がありますので、結果的に465万台前後に落ち着くのではないでしょうか。
新車販売台数25年8月までの実績と通年の見通し

【自動車生産】
自動車(新車)輸出が425万台で、輸入車販売を32万台と想定し、新車販売からその分を差し引いた国産車の新車販売が433万台とすると、合算して25年通年での自動車生産台数は858万台と見通します。これは前年比では104.19%ですが、コロナ禍から回復した23年実績の900万台と比較すると見劣りする数値となります。
問題なのは、米国向け輸出車両を維持することで、自動車メーカー各社の企業収益が圧迫することです。国内市場への価格転嫁も限界があります。そうなると関税回避のため米国現地生産へのシフトが加速し、国内工場の役割が縮小、部品供給や関連産業にも波及し、地域経済への影響が懸念されることです。
そういった意味でも、今、自動車産業は大きなターニングポイントに差し掛かっていると言えるのではないでしょうか。
自動車生産台数25年6月までの実績と通年の見通し

ここがPOINT!
野村総合研究所の試算では、関税が25%だった場合、日本のGDPは約0.8%押し下げられるとされていましたが、15%に抑えられたことで約0.5%の下押しにとどまる見込みとのことです。それでも巨大な追加負担が自動車メーカー各社にのしかかります。自動車メーカー各社が発表した26年3月期業績見通しとしては、営業利益に及ぼす影響は合わせて約2兆6千億円にもなるそうです。15%に確定はしたものの、引き続き今後の動向が気になるところです。
2 中古車流通のあれこれ
【2026年1月から施行される改正行政書士法の影響について】
先般、読者の方から、「来年から施行される改正行政書士法によって、中古車販売事業にどのような影響がでるのか」との問い合わせがありました。そこで今回はこの改正法の影響についてレポートしてみます。
【行政書士の資格のない者が書類を作成した場合、来年から厳しい罰則が】
確かに、改正行政書士法(以下改正法)は6月6日に衆参両院で可決成立し、来年1月1日から施行されます。この改正法の主な目的としては、行政関係へ提出する書類の作成において、行政書士の資格のない者が、違法に書類を作成することを防止する狙いがあるようです。
この改正法で中古車販売事業に限って言えば、移転登録や登録抹消、一時抹消、また車庫証明や継続検査などで発生する官公署に提出する書類の作成業務に影響が出そうです。今回の改正法では「名目を問わず」という文言が追加されたことで、行政書士の資格のない者が報酬を得てこれらの書類を作成する行為は全て違法とされます。
ただし「自社名義にする場合は自社のために行う書類の作成」ですから、違法ではありません。つまり、報酬を得て他人のために官公署に提出する書類の作成をする行為が行政書士の独占業務であり、それに該当しなければ違法とはなりません。ちなみに輸出事業者自身が、自社の名義で輸出抹消登録を行う場合は「自己の業務」であり、報酬を得ているわけではないので、書類作成にあたり行政書士資格は不要です。
この改正法の違法行為に対する罰則は以下の通りです。
行為者 | 罰則内容 |
無資格者(個人) | 1年以下の懲役または100万円以下の罰金 |
法人 | 上記に加え、法人にも同様の罰金刑が科される可能性 |
今回の改正法では、法人に所属する役員や従業員らが、法人の業務に関連して違法な行為をした場合、個人だけでなく、法人も併せて罰せられる両罰規定が導入されています。
【見積書、契約書、領収書などの表記の見直しが急務】
ところで、現行法でも「報酬を得て書類作成すること」は正確に言えば、違法行為でした。しかし長年、業界の慣行として、顧客からの依頼を受け、適切な委任状を取得し、かつその手続きの範囲内で行う場合に限り、行政書士法に抵触しないという見解が広く認められていました。また、代行に関して「登録代行手数料」や「車庫証明取得代行費用」などの名目で料金を取ること自体も問題ないという見解がありました 。これは、国土交通省や警察庁などの関係行政庁が事実上認めてきた側面もあります 。 しかし、改正後は、たとえ名目が「コンサル料」や「サポート費用」、「手間賃」、「会費」などの名目であっても、実質的に官公署に提出する書類の作成やその代行業務が含まれていれば、それは行政書士の独占業務に該当し、行政書士資格を持たない者が報酬を得て行うことは明確な違法となります 。
現在、皆様のお店で使われている見積書や契約書、領収書などの書類を一度確認してみてください。これら文言が記載していることはないでしょうか?仮に記載されていたら、速やかに見直す必要があります。
以上のことを含め、現時点で以下のような対策を講じておくことが必要かと思います。
対策 | 内容 |
業務フローの明確化 | 書類作成は行政書士に委託し、販売店は提出・取得のみ担当。提出・取得で発生する交通費や人件費などで報酬を得ること自体は可 |
契約書・領収書等の見直し | 「書類作成代行料」「登録代行手数料」などの文言を排除し、業務範囲を明記 |
行政書士との提携強化 | 丁種封印や登録業務を行政書士と連携し、合法的に処理 |
社内教育の徹底 | 無資格者が書類作成しないよう、業務分担と責任範囲を明確化 |
ここがPOINT!
現行法では、グレーゾーンが多く、摘発や抑止が機能しづらかったことから、今回の改正を機に厳格に臨もうとしている気配が感じられます。今回、この件について、中古車事業に携わる多くの皆様に聞き取り調査を行いましたが、意外なことに、ほとんどの方がこの改正法について認識されていませんでした。事が起きた時に「知らなかった」ではすまされませんので、今のうちに一度、業務内容を見直してみることをお勧めします。
3 どうなってるの中古車輸出
【近年際立つ、中古軽自動車輸出需要の高まり】
近年、多くの国で、日本の中古軽自動車の需要が高まっています。以前からパキスタンにアルトやミラ、ワゴンRが、また使い勝手の良さから、北米を中心に経年式の軽トラックが輸出されていた経緯はありましたが、このところ、需要の高まりが際立っています。今年に関して言えば、スリランカの需要が一気に押し上げているのですが、それを除いても確実に上昇しています。今回は、“なぜ今、世界から日本の中古軽自動車の需要が高まっているのか”をレポートしてみました。
【なぜ今、日本の中古軽自動車は世界から求められるのか!?】
今年7月までの累計実績で、軽トラックを除く軽乗用車(バンは含む)の輸出台数は前年同期比で40.6%増の6万4946台となりました。そして仕向国数は実に94ケ国と、多くの国に輸出されています。
この上昇の要因としては、5年振りに輸入が解禁されたスリランカの需要が大きく、同国だけで、すでに7月までに1万台を超える軽乗用車が輸出され、FOB価格も高年式が中心であることから、軽であっても135万2千円と高額となり、軽乗用車全体を押し上げています。
実はこのスリランカの傾向が、近年の軽乗用車の需要の高まりを物語っています。それはどういうことか言えば、本来、スリランカの末端市場で人気が高く輸出したい車種は、ヴェゼルHVやライズまたライズHV、ヤリス、ヤリスクロスHVと言った小型登録車なのですが、何分、これらの車種は、ほかの国でも人気があることから、中古車市場では相場が高騰し、なかなか仕入れが難しい状況です。その点、日本の中古車市場には軽自動車が存在し、相場は決して安くはありませんが、小型登録車に比べれば値ごろ感があり、また流通量は豊富です。さらに最近の軽乗用車は、従来のデザイン性や燃費性能の高さに加え、荷室が広くなり、また性能面でも小型車との差が縮まっているなど、十分需要を満たしています。そういうことから、小型車の代替えとして輸出されています。こうした傾向は、同国だけでなく多くの国に共通し、国によっては通関の際、関税も安いことや、また中古車輸出には重要な補修部品の供給も充実していることから、このところ軽乗用車の人気が高まっているのです。
ところで、これまで記述してきたのは、バンを含む軽乗用車のことで、これには軽トラックが含まれていません。貿易統計では、軽トラは資料②に記載した「<=2.0L,車種<=5tトラック」の商用車として分類されています。この分類にはハイエーストラックやボンゴトラックなど小型トラックも入るので、軽トラがどれほど輸出されているかは定かではありません。ただ、ガソリントラック6万台のうち、(ディーゼルトラックには軽トラは、ほぼないと推定)8割以上5万台前後は、軽トラが占めているのではないかと考えられています。とするならば、軽トラも含めた中古軽自動車の輸出台数は、7月の時点で優に10万台、シェアも10%を遥かに超えていると言う驚きの実態があります。
資料①2025年(1月~7月累計実績)中古軽乗用車輸出台数実績

資料②中古軽トラックが含まれている商用車の輸出統計
2025年1月~7月累計実績

【アフリカの経済発展に貢献する 日本の中古軽自動車】
中古軽自動車輸出の近年の傾向として、もう一点特筆すべき点があります。それはアフリカ地域への需要拡大です。前述したように、今年はスリランカが中古軽乗用車の輸出を押し上げていますが、同国を除いたとしても7月時点で5万4101台が輸出され、前年同期比では17.1%増となっています。実はこの増加分は、アフリカ勢が占めています。そして、他の地域に輸出されている中古軽乗用車とは違い、アフリカ地域の特徴としては、圧倒的に軽バンが多く、商用として使われている点です。過去のレポートでも、コンゴ民主共和国で、経年式のエブリーバンが乗合バスとして活躍していることをお伝えしていますが、まさに今、アフリカの多くの国で、日本の経年式の軽バンが、バスやタクシーとして需要が高まっていて、アフリカ経済の発展に貢献しています。
資料③2025年(1月~7月累計実績)
中古軽乗用車輸出台数仕向国トップ10

ここがPOINT!
今後も品質がよく使い勝手のよい日本の中古軽自動車は、世界各国から需要が高まっていくことでしょう。一方、日本の軽自動車の規格に収まる海外の車は、存在することはしますが、かなり少ないため、競合することはありません。供給面でも毎年軽自動車の新車が150万台以上販売され、保有台数は今年6月時点で3426万3843台にも上り、どれだけ需要が拡大しようとも十分賄える量を備えています。そういったことからも中古軽自動車の輸出には大いに期待が膨らみます。
2025年10月号








