業界レポート12月号 Vol.73
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本レポートでは、オークネット会員様のビジネスのお役に立てますよう
大きなターニングポイントに差し掛かっている自動車産業にフォーカスした情報をタイムリーにお届けします。
執筆・編集:特定非営利活動法人 自動車流通市場研究所 理事長 中尾 聡
▼目次
【トランプ関税から半年が経過。改めて影響を検証】
【過熱する中古車相場形成の背景&相場への影響が懸念される泥沼化した放射線量検査】
【中国の中古車輸出の現状と未来】
1 自動車流通のトレンド
【トランプ関税から半年が経過。改めて影響を検証】
11月17日に内閣府が発表した2025年7〜9月期の国内総生産(GDP)速報値は、物価変動の影響を除いた実質の季節調整値が前期比0.4%減、年率換算で1.8%減となりました。トランプ関税による輸出の低迷が響き、6四半期ぶりにマイナスに転じています。同関税は4月に27.5%に引き上げられ、その後、9月には15%に引き下げられましたが、すでに半年が経過しています。今回はこの間の影響を改めて検証したいと思います。
【“守りの減益、攻めの台数”を貫いた日本の自動車メーカー】
25年4月3日から9月15日深夜(米国時間)までの約5.5か月間(165日)、米国向け日本製乗用車には27.5%の関税が適用されていました。これは日本の自動車輸出にとって過去最大級の通関コスト増となりました。
ちなみに8月7日(大統領令が発効した日)以降に通関された車両で、27.5%を支払ったものについては、差額分の還付申請が可能なようです。この日は関税引き下げと引き換えに日本政府が5500億ドル規模の米国向け投資基金創設を約束した日でもあり、読者の皆様もご記憶にあるかと思われます。
さて、次に具体的な数値で検証したいと思います。(表参照)この期間の輸出台数は65万4233台で前年同期比では3.4%減と、さほど影響を受けたとは言えない実績です。しかしながら、関税起因による減益となった影響額は、メーカー7社で実に1兆4982億円にも達しました。
要するに、これだけダメージを受けても台数を維持しなければならない背景があったと言うことです。それはやはり、米国市場が日本車メーカーにとって最大の収益源であり、一度シェアを失うと、再奪還には莫大なコストと時間がかかることや、またディーラー離れや販売網の弱体化につながることから、ここは関税で利益は削られても、米国市場での存在感を失うわけにはいかない。今は“守りの減益、攻めの台数”という覚悟の姿勢を示したのだと思われます。
2025年4月~9月 米国向け新車輸出自動車メーカー別の影響

※自動車メーカー別の台数は、あくまでも推定値
※米国向け合計は日本自動車工業会(JAMA)の統計データ
※影響額は2025年の収益構造における関税起因の減益分
【下期は関税15%と円安でシェア維持と収益回復を目指す展開】
さて今後の見通しですが、自動車メーカーは「関税15%+円安」という環境下で、米国市場のシェア維持と収益回復を両立させる戦略に移行していくと思われます。具体的には、価格転嫁が徐々に進行するのではないでしょうか。4〜9月期は吸収型でしたが、10月以降は一部車種で値上げを開始しています。これは、国内の販売価格上昇にも連動する可能性があります。
またホンダがCR-Vやシビックの米国生産比率を拡大するとしているように、現地生産シフトが加速すると思われます。ただトヨタに関しては、国内でも新工場の計画を表明し、「母国で雇用と技術を守る」と頼もしい姿勢を強調しています。
あと下期に関しては、円安による収益押し上げ効果が期待されます。多くの自動車メーカーは25年度の為替前提を「1ドル=130〜135円」としていましたが、実勢は150円〜155円台で推移しており、この差が輸出採算を改善し、利益を押し上げました。しかし、為替頼みの構造はリスクが高いですし、逆に輸入に関しては、部品や素材が高騰し、現在、国内販売価格の上昇に繋がっていますので、難しい面があることは否めません。
ここがPOINT!
トランプ大統領の気まぐれと言うか、思いつきと言うか、くるくると目まぐるしく変わる政策変更には、世界中が振り回されているのではないでしょうか。1年後に中間選挙を控え、現在、支持率は低下しているようなので、今後支持率回復のために何か仕出かすことも十分考えられます。自動車輸出に関しては、これから回復が見込まれますが、またいつ何が起こってもおかしくない状況ですので、動向には十分注視する必要がありそうです。
2 中古車流通のあれこれ
【過熱する中古車相場形成の背景&相場への影響が懸念される泥沼化した放射線量検査】
2025年の中古車相場は異次元の相場と言われた24年の相場を大きく上回る状況でスタートし、その後、3月後半から8月盆前までは前年並みまで落ち着きましたが、現在は再び異常なほど中古車相場は過熱しています。今回はこの相場形成の背景と今後、相場に影響が及びかねない泥沼化した放射線量検査の動向についてお伝えします。
【異常な中古車相場を生み出している旺盛な中古車輸出需要】
近年の中古車相場は、コロナ禍に見舞われ、最初に緊急事態宣言が発令された20年の4月に底を打って以来、基本的には今日まで6年間騰がり続けています。しかし、代替サイクル(新車ユーザーが次の新車を購入するまでの期間)が長期化し、平均車齢が高齢化、また使用年数が長期化している中で、本来、中古車の相場は下降するべきところですが、逆にこれほど高騰しているのはロジックとしては成り立たない現象です。何故、このような現象が生じているのか。まさに現在の状況がこれを示しています。
具体的に言えば、現在、新車販売は7月から前年割れが続き低迷しています。新車が売れなければ下取車の発生が減少しますから、自ずと中古車登録台数&届出数やオークション出品車も減少します。要するに、中古車の市場への供給量が減少しているにも関わらず、需要が異常に高まっているため、需給のバランスが大きく崩れ、桁違いの中古車相場が形成されています。
2020年~2025年中古車相場7日間移動推移

出所:株式会社ユーストカー
その需要ですが、国内小売については、大規模店は好調なようですが、中小規模の販売店は倒産件数が過去最多ペースとなるほど苦戦していますので、相場を押し上げている要因とは言えません。それでは、何がこれほどまでに相場を押し上げているか、それは旺盛な中古車輸出需要によるものです。
今や中古車輸出はアフリカ・南米でバブルが起きていますし、高年式&高額車需要の高いマレーシア、パキスタン、そして5年振りに輸出を解禁したスリランカなど強烈な需要が異常とも言える相場を生み出しています。
【中古車相場に影響が及ぶか!?気になる放射線量検査の行方】
このように過熱している中古車相場を形成している中古車輸出ですが、今後に影響が及ぶかもしれない現象が生じています。それはVOL.68、69でも紹介した「船積みする中古車への放射線量検査」です。当初は10月を目途に解決するかと思われていましたが、逆に泥沼化の様相を呈しています。具体的には、この間、検査料を支払わないことで、中古車輸出の老舗であり、業界を代表する企業に対し、仲介業者(輸出の通関業務などを行う業者)が、恐らく実際に検査を行う業者に忖度していると思われますが、取引停止方針を口頭で伝えたとのことです。あくまでも方針であり、口頭とのことですから、実行することはないと信じますが、仮にこれが実行され、他の事業者にも波及すれば、中古車相場に影響が及ぶ可能性は考えられます。
ただ、これまでの経緯に示している通り、原発事故が起きてから14年が経過し、対象車両が0になってから8年が経過しようとしています。いずれは廃止するべきものであり、業界団体と労働組合は10月の検査見直しを来年3月まで延長していますが、この時点での冷静な判断を期待したいところです。
放射線量検査これまでの経緯

ここがPOINT!
今回、問題提起として「放射線量検査」について紹介していますが、実際に旺盛な輸出需要は変わらず、中古車相場への影響はないと見ています。一方、新車販売はトランプ関税の影響もあり、価格は上がっていくので、現状維持、もしくは減少することが予想され、それに伴って、中古車の供給も今後は、あまり期待できません。従って、中古車相場は今後も過熱していくと思われます。
3 どうなってるの中古車輸出
【中国の中古車輸出の現状と未来】
中国山東省・青島で中国オークション協会(王波会長)自動車オークション委員会(賀慧委員長)の第3回総会が開催されました。今回の総会のメインテーマは“中古車輸出の進化”です。総会の冒頭、中国政府系ファンドと中国オークション協会との間で「中古車輸出オークションサービスプラットフォーム」の投資意向書の締結と、戦略的パートナーシップの締結が行われるなど、現在、官民一体となって、中古車輸出の活性化を図ろうとしています。
筆者はこの総会に参加しましたが、そこで感じた中国における中古車輸出の現状と未来について、今回レポートしてみます。
【中国の最新中古車輸出事情】
中国では、2019年に中古車輸出が解禁されたばかりで、スタートから僅か7年と歴史は浅いです。最初の3年間はアフリカや東南アジアを中心に経年式車が輸出されていましたが、修復歴の隠蔽や部品供給体制の未整備、さらに車両価格自体が経年式車のわりに総じて高額であることから低迷していました。しかし22年以降になると、ロシアが西側諸国から経済制裁をうけたことで、中国からの需要が高まり、また以前、この連載でも紹介しました新疆ウイグル自治区にある「コルガス自由貿易圏」の整備拡充とともに中央アジアや東欧、中東の「一帯一路」沿線諸国と言ったこれまでとは異なった多くの仕向国に輸出されるようになりました。
表①中国の中古車輸出年間推移

表②2024年中国中古車輸出仕向国ランキング

【中国オークション協会がリリースする中古車輸出プラットフォームとは】
今回の総会では冒頭にも述べたようにメインテーマは“中古車輸出の進化”ですが、具体的に何を以って進化と言えば、それは中古車輸出のプラットフォーム、所謂、中古車輸出WEB構築のプロジェクトにあります。今回、全体の概要はお披露目されていませんが、プロジェクトの総責任者である韓涛副会長によれば、『今年6月に日本の中古車市場を視察し、そこで学んだ多くの点を、このWEBに反映させている。現在着実に開発が進んでおり、恐らく来年の中ごろには本格的にリリースできるのではないか」とコメントしました。
同氏はこのWEBの主要なポイントは、“車輌情報の透明化”にあると言います。これまで中国から輸出されていた中古車には、「修復歴を隠蔽している」などのイメージが先行していましたが、やはり日本のように、修復歴車も含め、すべての中古車に対し、中立の立場の検査員が車輛情報を厳格に検査し、それを文字情報に落として提供する。また画像についても360度全方位やダメージ箇所にフォーカスしたものまで多くの画像を提供し、多くの国のバイヤーから信頼され評価されている点を、今回のWEBに反映させたいと考えているようです。
また、今回の総会では、現状の中国の中古車市場の問題点も挙げていました。中国では、中古車登録台数は表③でも示している通り、桁違いの実績となっています。今年の見込みとしては、2000万台を超えそうです。しかしながら、その登録台数に対して、オークションの成約台数は近年成長はしているものの、未だ1割にも満たない状況です。
表③中国の中古車登録台数&オークション出品台数、成約台数 年間推移

中国には全国で435社のオークション企業が存在し、その多くが中古車輸出事業も行っています。それら輸出企業が、同一基準、同一規格でこのWEBに参加し連携するようです。これでボリューム感を出し、仕向け国にPRする狙いがありますが、一方では国内流通にも転用し、オークション流通を活性化する目論見もあるようです。二重売りを回避するための管理の難しさもあると思いますが、狙いとしては確かに興味深いものが感じられます。
ここがPOINT!
今回の総会では筆者も登壇して講演を行いました。登壇して会場を見渡したところ参加者が前回(2年前)に比べ半減していることに気がつきました。この点について、講演後、主催者に聞いたところ、現在、中国経済は疲弊しきっており、自動車関連事業者も事業縮小、廃業、倒産が急増しているようです。ただ半減したとは言え、参加者の意気込みや熱量は大いに感じられました。この生き残った事業者が、来年リリースする中古車輸出WEBに参戦することで、中国の中古車輸出の未来がかかっているようです。
2025年12月号








