業界レポート4月号② Vol.77
- 3 日前
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大きなターニングポイントに差し掛かっている自動車産業にフォーカスした情報をタイムリーにお届けします。
執筆・編集:特定非営利活動法人 自動車流通市場研究所 理事長 中尾 聡
【中東リスクが露呈させた‘’新車供給ショック‘’ 】
3月に入り、中東情勢の急速な緊迫化を受け、トヨタと日産が相次いで減産を発表しました。トヨタは中東向け車両が対象であり、日産は国内向け車両が対象となりますが、いずれも中東情勢が日本国内の自動車生産に直接的な影響を及ぼし始めていることを示唆しています。
2025年の実績では、日本から中東地域へ54万4093台(輸出全体の13%)の新車が輸出されており、中東は日本メーカーにとって極めて重要な市場であります。今回のレポートでは、中東向け新車輸出の推移を振り返りつつ、今回の紛争がどのような影響を及ぼすか考察してみます。
【中東向け新車輸出の推移と市場構造】
日本から中東地域への新車輸出は、11〜14年にかけて原油価格が高止まりした時期に大きく伸びました。産油国の財政が潤沢だったことで、公務員給与の引き上げ、補助金の拡大、公共投資の増加などが進み、消費活動が活発化したためです。特に日本車は、砂漠環境での耐久性が高く評価され、ランドクルーザー、ハイラックス、パトロール といったモデルが“絶対的ブランド”として確固たる地位を築きました。この結果、15年には68万4886台と過去最高を記録しています。しかし、14年後半からの原油価格暴落により産油国の財政が急速に悪化し、購買力が低下。新車需要は縮小し、日本からの輸出台数は減少傾向に転じています。さらに20年のパンデミックでは、物流停滞により輸出そのものが困難となり、輸出台数は大幅に落ち込みました。
その後は、中国製SUV・ピックアップの台頭や韓国車のシェア拡大といった競争環境の変化がありながらも、日本車は信頼性の高さを背景に着実に回復を遂げていました。
しかし、こうした回復基調の中で、米国とイスラエルによるイラン攻撃を契機に中東情勢が再び緊迫化し、現在は新車輸出に直接的な影響が生じています。
中東地域への新車輸出台数年間推移

【今後の新車市場への影響】
今後の影響について、トヨタの減産の事例から考えてみたいと思います。トヨタは3月に中東向けのランドクルーザー系を約2万台の減産をするとしています。数量としては限定的に見えるものの、ランドクルーザー系は利益貢献度が高く、期末における収益への影響は小さくないと言えます。さらに、トランプ関税の影響で今期の収益性が悪化している中での減産であり、痛手となります。
一方で、「国内のランドクルーザーは依然として長納期なので、国内向けに振り替えればよいのではないか」という疑問もあります。しかし、実際には国内向けと中東向けでは仕様が大きく異なり、短期間での振り替えは現実的ではありません。左右ハンドルの違いに加え、高温地域向けの冷却性能、エアクリーナー、サスペンション、排ガス規制、安全基準など、ほぼ別モデルと言えるほど設計が異なるためです。従って、短期的には「作っても運べない」という状況が生じ、生産調整という形で影響が表面化しています。
ただし、トヨタ側が現時点で大規模な生産振り替えに踏み切っていないことは、今回の紛争は長期化しないとの見方が一定程度あることを示唆しています。
今回の紛争で中東市場の需要が消滅するのではなく、一時的に停止しているだけであり、再開後には“反動需要”が発生することが過去の事例からも明らかです。この反動増を見越し、生産枠の確保や部品調達の前倒しなど、将来の需要回復に備えた調整を進めているのだと思われます。
結局のところ、今回の紛争が新車市場に与える影響は、
①いつ終結するのか
②物流がどれだけの期間で回復するのか
この二点に完全に依存しています。紛争が短期で収束すれば影響は限定的ですが、長期化すれば国内生産への影響は避けられず、生産計画の大幅な見直しを迫られると言うことです。
ここがPOINT!
現時点では、紛争の終結時期も、ホルムズ海峡の安全確保に要する期間も、誰にも予測できない状況にあります。ただし、過去の紛争やパンデミックの経験から言えるのは、物流が止まるのは一瞬ですが、元に戻るには数か月単位の時間が必要ということです。したがって、26年上期は新車市場においても影響が残る可能性は高いと言えるでしょう。
2026年4月号
