業界レポート5月号① Vol.78
- 4 日前
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今月のレポートも先月に続き、イラン情勢の影響が中心的なテーマとなりました。
トランプ大統領による停戦に向けた発言は日々変化しており、このレポートが公開される頃には、事態が終息に向かっている可能性もあれば、逆に攻撃が再開されている可能性もあります。先行きが極めて不透明な状況ではありますが、こうした背景をご理解のうえ、ご高覧いただければ幸いです。
執筆・編集:特定非営利活動法人 自動車流通市場研究所 理事長 中尾 聡
【イラン情勢による自動車メーカーへの影響】
4月11日、世界が注目した米国とイランの停戦協議は不調に終わりました。ところが17日には、イラン側がレバノンにおける停戦合意を受けて、ホルムズ海峡を開放すると発表。しかし翌日には撤回するなど未だ予断を許さない状況が続いています。また、中東湾岸諸国のエネルギー関連インフラはイランの攻撃で大きな損傷を受けており、仮に停戦が成立しても復旧には長期化が避けられない状況です。今回は、こうした地政学的リスクが日本の自動車メーカーにどのような影響を及ぼしているのかを整理してみます。
【滞船するPCCと輸出調整がもたらす“静かな痛手”】
イラン情勢が自動車メーカーに与える影響の第一は、新車輸出の停滞です。前回号でトヨタと日産が減産調整に踏み切ったことを紹介しましたが、その後もマツダが5月まで中東向け車両の生産を一時停止、スバルも現地向け出荷を止めています。代替ルートとしてアフリカ・喜望峰回りの航路もありますが、航行日数の増加と海上輸送コストの急騰を考えると現実的な選択肢とは言い難いです。さらに深刻なのは、ペルシャ湾内に滞船している日本関連船舶42隻(4月18日現在)のうち、9隻が自動車専用運搬船(PCC)である点です。これらは2月28日以前に中東湾岸諸国で荷下ろしを終え、日本へ帰港する途中で海峡封鎖に遭い、約2カ月にわたり湾内に留め置かれています。PCCは1隻で数千台、9隻で数万台規模の輸送能力を持ちます。直接的な損失ではないにせよ、この“物流機能の停止”は日本の新車輸出にとって大きな痛手となっています。

【石油由来製品の供給不安が製造・整備の現場を直撃】
第二の影響は、石油由来製品の供給不安です。ナフサ(粗製ガソリン)を原料とする塗料や樹脂製品の供給が不安定化し、複数の架装メーカーで生産に支障が生じています。日本フルハーフやトランテックスは、塗装材料の調達難により今後の生産に影響が出る可能性を公表しました。塗料大手の日本ペイントはシンナー価格を3月中旬に75%引き上げ、中堅・中小メーカーも値上げや供給制限を相次いで実施しています。
影響は完成車メーカーだけではありません。整備事業者の現場では、特にディーゼルエンジン用オイルの在庫逼迫が深刻化しています。エンジンオイルの主成分である「グループIII」のベースオイルは国内で精製されておらず、韓国とカタールが主要な供給元です。しかし、カタールの英シェル精製施設がイランの攻撃で操業停止に追い込まれ、日本向け供給が全面的に止まってしまいました。韓国からの輸入は継続しているものの、メーカー側が供給制限をかけており、前年実績を超える発注はできない状況が続いています。

ここがPOINT!
仮に紛争が終結したとしても、状況が即座に正常化する可能性は低いと言えます。イランがホルムズ海峡に機雷を敷設しているとの情報もあり、安全な航行を再開するには大規模な掃海作業が必要となります。また、中東湾岸諸国のエネルギーインフラは今回の攻撃で甚大な被害を受けており、原油供給の安定化には長い時間を要すると思われます。自動車メーカーは、紛争の行方だけでなく、紛争後の“回復の遅れ”まで視野に入れた中長期的なリスク管理が求められます。
2026年5月号
