業界レポート8月号③ Vol.81
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本レポートでは、オークネット会員様のビジネスのお役に立てますよう、大きなターニングポイントに差し掛かっている自動車産業にフォーカスした情報をタイムリーにお届けします。
執筆・編集:特定非営利活動法人 自動車流通市場研究所 理事長 中尾 聡
「海運混乱下でも存在感を増す英国・アイルランド」
海運事情の悪化で中古車輸出は3月以降前年割れが続いていますが、英国とアイルランド向けは例外的に伸びています。両国では環境規制の強化や貿易構造の変化を背景にHV需要が高まり、日本車の輸入が勢いを増しています。今回は、その要因を簡潔に整理します。

環境規制の強化によるHV需要の拡大
海運事情は、未だホルムズ海峡の封鎖が解決せず、またマンデブ海峡周辺の危険度も高まり、それに加え、中国からの新車完成車や部品輸出が急増し、PCC(自動車専用船)を含めRO-RO船が中国向けに多く割かれ、船腹の供給不足に陥るなど、今や世界規模で混乱が生じています。
こうした逆風の中で、日本から中古車の輸入を飛躍的に拡大させているのが英国とアイルランドです。特に両国は近年、環境規制の強化を背景にHV需要が急拡大しています。英国では輸入車両(日本からの中古車分)の約57%、アイルランドでは約75%がHVで占められ、他の仕向国では見られない独特の構成となっています。アイルランドでは08年に車両登録税(VRT)が排気量ベースからCO₂排出量ベースへと変更され、20年にはNOx排出量も課税対象となりました。これにより英国からの中古ディーゼル車輸入が急減し、日本からのHVが一気に流入する構造が生まれています。
2026年1〜5月の累計輸出台数は英国が1万5245台(前年同期比166%)、アイルランドが1万190台(同181%)と、いずれも過去最高を更新する勢いです。両国は右ハンドル左側通行で日本車との適合性が高く、地理的にも近接していることから船の混載も可能なため、長年にわたり日本車の輸入が続いてきました。
ちなみに、26年6月までに日本から両国に輸出された主要車種を見ると、改めてHVの構成比の高さが際立っています。英国向けではプリウス(ZVW51・ZVW50)、フィットHV(GP5)、カローラツーリングHV(ZWE211W)など、幅広い年式のHVが選ばれています。アイルランド向けではフィットHV(GP5)、RAV4 HV(AXAH54)、ヤリスHV(MXPH10)などが上位を占め、23〜24年式の新しめのHVも増えています。EVの輸出も絶対数は少ないものの増加傾向にあり、環境政策の影響が色濃く反映されています。
2026年1~5月燃料別輸出実績VS英国&アイルランド比較

26年1月~6月英国向け&アイルランド向け輸出中古車主要車種

近年、日本の中古車需要の高まりは、英国のEU離脱が影響!?
英国・アイルランドとも、近年飛躍的に日本の中古車輸入が拡大している背景には、20年の英国のEU離脱(ブレグジット)が大きく影響しています。それまで両国はEU域内で自由に中古車を流通させていましたが、離脱後は関税やVAT、通関手続きが発生し、英国・アイルランド間の流通コストが上昇しました。
一方、日本はこの時期に英国と「日英包括的経済連携協定」、EUとは「日EU経済連携協定」を締結し、関税が段階的に引き下げられ、26年2月に完全撤廃されています。これにより、両国は英国・アイルランド間で中古車を流通させるより、日本から直接輸入する方が合理的となり、HVを中心に日本車の輸入が急増しているのです。特に今年2月以降、両国への輸出台数が大幅に伸びたのは、2月に完全撤廃されたことが起因しています。
こうして、英国・アイルランド向けの中古車輸出は、環境規制と貿易構造の変化を背景に力強く伸びていますが、足元では海運事情の悪化が新たな懸念材料となっています。特にRO-RO船の供給不足は深刻で、中国向けの新車輸送が増えたことで日本発のスペースが逼迫し、コンテナ輸送への依存度が高まっています。また現状、紅海ルートを回避し喜望峰経由となることで航路が大幅に延び、輸送期間は長期化、保険料やコンテナ単価も急騰しています。ブレグジッドによる関税撤廃による価格メリットを上回る形で、輸送コストが増加しつつあります。
2011年~2025年 英国&アイルランド中古車輸出台数年間推移

26年1月~5月 英国&アイルランド中古車輸出台数月間推移

ここがPOINT!
英国・アイルランド向け中古車輸出は、環境規制や貿易構造の変化を背景にHV需要が拡大し、海運混乱下でも伸びています。一方で、現在の海運事情がさらに悪化するようであれば、今以上に航路の長期化と輸送コストの上昇を招き、勢いに陰りが出る可能性が高まります。そういった意味では、今後両国の行方は海運事情の改善が大きな鍵となりそうです。
2026年8月号
