業界レポート9月号① Vol.82
Ⅰ 自動車流通のトレンド

本レポートでは、オークネット会員様のビジネスのお役に立てますよう、大きなターニングポイントに差し掛かっている自動車産業にフォーカスした情報をタイムリーにお届けします。
執筆・編集:特定非営利活動法人 自動車流通市場研究所 理事長 中尾 聡
【自然災害が新車市場に与える深刻な影響】
7月28日に発生した令和8年熊本地震、そして8月中旬の千葉県の記録的豪雨により、被害に遭われた皆様に心よりお見舞い申し上げます。一日も早い復旧と平穏な生活の再建をお祈りいたします。
直近の新車市場では、こうした自然災害が自動車生産に大きな影響を及ぼしました。部品供給網の寸断により全国の工場が停止し、好調だった新車需要に影を落とし始めています。災害が新車市場に与える構造的なリスクが改めて浮き彫りとなりました。今回はこの問題についてレポートします。
熊本地震が全国の生産拠点に波及した構造的影響
7月28日に発生した熊本地震は、九州地方の部品メーカーを直撃し、サプライチェーン全体に深刻な影響を与えました。特に、ドアチェックなどの機能部品を製造するアイシン九州や、車載部品を手掛けるアステモ宇城工場が被災し、停電や建物損傷により操業を停止したことが大きなボトルネックとなりました。
特定部品の供給が止まることで、全国の完成車工場が連鎖的に稼働停止に追い込まれる構造が改めて顕在化しました。
トヨタ自動車は、福岡県のトヨタ自動車九州3工場の停止期間を8月5日深夜まで延長し、さらに愛知県の田原工場も8月3日から7日まで操業を停止しました。レクサスやSUVの生産計画に影響が出ています。
日産自動車も九州の2工場でライン停止を延長し、ダイハツ九州の大分工場・久留米工場も8月5日夜勤帯まで稼働停止を継続しました。
ホンダはアステモ宇城の被災により、埼玉製作所・鈴鹿製作所・ホンダオートボディーの生産を停止し、軽商用車「N-VAN」シリーズにも影響が及んでいます。さらに三菱自動車は岡山県の水島製作所で一部車種の生産を停止するなど、影響は九州を越えて全国に広がりました。

新車市場の需要と供給のギャップ、そして豪雨災害の追い打ち
今回の震災によって、改めてサプライチェーンの寸断が浮き彫りになっていますが、特に問題なのは、このサプライチェーンの末端に位置する企業ほど経営基盤が弱く、災害時の影響が深刻化してしまうことです。これに対して政府は、被災した中小企業・小規模事業者への負担軽減を業界団体に要請し、取引継続と一方的な負担転嫁の回避を求めています。
ところで国内の新車販売は、新型車の投入効果もあり前年を上回るペースで推移していました。しかし、今回の地震により供給網が寸断され、好調な需要に対して供給が追いつかない状況が懸念されます。特に人気車種や軽自動車は納期遅延が再び長期化する可能性があり、販売現場では受注調整を余儀なくされるケースも出始めているようです。そんななか、8月13〜14日にかけて千葉県の広域にわたって記録的豪雨が襲いました。自動車流通業界でも新車ディーラーや中古車販売事業者などに停電や浸水被害が生じているようです。いずれも盆休み期間中であったため、被害の全容把握が遅れている地域もあるようで、今後明らかになる被害の全容が気がかりです。
盆前に発表された調査機関による、7月の企業倒産件数は、2カ月連続で1000件超となりました。自動車関連も小売業や付属品卸売業・運輸業で増加が見られています。物価高、人件費高騰、人手不足に加え、中東情勢の緊迫と、この間の度重なる自然災害の被害によって、今後、倒産件数は高止まりする可能性が懸念されます。
2026年上期 新車販売台数トップ10

( )は前年同期比
ここがPOINT!
熊本地震は、特定部品メーカーの被災が全国の生産拠点を止めるというサプライチェーンの脆弱性を再び浮き彫りにしました。新車需要は堅調ですが、供給の遅れが長期化すれば市場の勢いに水を差す可能性があります。さらに千葉県の豪雨による流通被害も重なり、自然災害が新車市場に与える影響は今後も注視が必要です。
2026年9月号
