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業界レポート11月号 Vol.48

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  • 2023年11月2日
  • 読了時間: 10分

更新日:2024年3月4日



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本レポートでは、オークネット会員様のビジネスのお役に立てますよう大きなターニングポイントに差し掛かっている自動車産業にフォーカスした情報をタイムリーにお届けします。

執筆・編集:特定非営利活動法人 自動車流通市場研究所 理事長 中尾 聡



▼目次


【2023年 日本は自動車輸出世界1位の座を中国に明け渡すか!?】


【「中古車業界もいよいよ苦境に追い込まれたか」とのマスコミ報道が…】


【中古車輸出はかつてない盛況を呈し記録更新は確実】

1 自動車流通のトレンド

【2023年 日本は自動車輸出世界1位の座を中国に明け渡すか!?】


 中国海関総署(税関)の通関統計によりますと、上半期(1〜6月)の中国の自動車輸出台数は234万1000台となりました。それに対して、日本自動車工業会(自工会)が発表した日本の輸出台数は202万3425台(前年同期比116.8%)と、半期ベースですが中国は初めて日本を抜いて世界最大の自動車(新車)輸出国になっています。前年同期比を見てもわかる通り、日本も決して悪くはないのですが、それ以上に、中国に勢いがみられ、恐らく通年でも世界一の座を明け渡すことになりそうです。今回はこの中国の自動車輸出上昇の要因について分析してみます。


【中国政府の手厚い補助金政策で、EVメーカーが躍進】

 やはり好調の背景には、現在、世界の電気自動車(EV)市場を席巻している中国EVメーカーの存在があります。一人勝ち状態だったテスラを追い抜いた比亜迪(BYD)をはじめ、吉利汽車(ジーリー)や広州汽車集団のAIONなどが、政府の手厚い産業補助金政策を受け、また、原材料の採掘・加工から生産に至るまで国内での供給網をしっかりと構築し、競争力のある価格設定がされていることで輸出台数を押し上げています。ちなみに先ごろ日本でもBYDの「ドルフィン」が発売されましたが、注目されていた販売価格は363万円からと、普通車のEVとしては安い設定になっています。

 しかし、今後中国からのEV輸出拡大に不透明感も漂い始めました。EU(欧州連合)の政策執行機関である欧州委員会が、中国EVに対する補助金の調査に乗り出しています。要するに、中国EVが、国からの補助金で販売価格を抑えていることによって、EUのEVメーカーに損害を与えているのではとのことで、もし損害を与えていると認定されれば、関税を上乗せするなどの措置をとることができます。そうなった場合は、鈍化する可能性があります。

 先述した「ドルフィン」についても、安い販売価格の上に、国のCEV補助金と各自治体の補助金を利用すると、さらに安くなり、

それがEVのみならず、日本車全体にダメージを与えると言う見方もあります。

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中国では、緑色のグラデーションのナンバーがEV。ナンバーの取得費用もICEVよりも安く、それが、国内販売台数も伸ばし、輸出も併せ生産台数を押し上げている。

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上海郊外にあるマンションの駐車場の様子。近年、中小EVメーカーやカーシェアリング企業の倒産で「EVの墓場」が相次いで発生し、問題にはなっているものの、国内は確実にEVが普及している。


【ロシアでは、経済制裁によって生じた自動車供給の大幅な減少分を中国車でカバー】

 中国から輸出されている自動車のうち、好調だとは言えEVを含めた新エネルギー車の比率はわずか24%に過ぎません。未だ圧倒的多数を占めるのは、内燃機関のガソリン・ディーゼル車(ICEV)です。そのICEVの輸出で、昨年から一気に増えた国がロシアです。ちなみにEVに関しては、中国メーカーはロシア国内で生産し供給していますから、輸出されている車は圧倒的にICEVです。中国汽車工業協会(CAAM)の統計によりますと、23年1月から8月までにロシアへ輸出された台数は54万4000台で、前年同期の7.7倍に急増しています。ロシアは、ウクライナ侵略によって、西側諸国から経済制裁により自国での生産及び輸入ができなくなったことで、年間で100万台近く、自動車供給が減少しています。その穴埋めを中国に求め、その結果、中国の自動車輸出が飛躍的に拡大しました。EVについては、EUが規制を行えば鈍化しますが、ICEVに関しては、今後もロシア需要が継続されますから、日本が今年、自動車輸出世界1位の座から陥落する可能性は高いと言えます。


ここがPOINT!

 筆者は9月に中国で自動車関連のフォーラムに参加してきましたが、そのフォーラムで再三取り上げられていたのは、新疆ウイグル自治区で急ピッチに開発が進められている“コルガス自由貿易圏”です。中国政府は中東ドバイの自由貿易圏に引けを取らないほどの規模を目指しているようで「この自由貿易圏が本格稼働すれば、ロシアを始めとする欧州、またアジアに向けた巨大な物流拠点になるだろう」とし、「これによって新車輸出をより活性化させる」としていました。



2 中古車流通のあれこれ

【「中古車業界もいよいよ苦境に追い込まれたか」とのマスコミ報道が…】


 会員の皆様も目に触れられたかと思いますが、10月中旬、マスコミ等で、「中古車店の倒産件数が過去10年で最多ペース」とのニュースが流され、特需に沸いた中古車業界も、いよいよ苦境に追い込まれたかとの報道がされています。しかしながら、中古車登録・届出数は6ケ月連続で前年を上回っており、相場に関しても、さすがに異常だった昨年の相場は下回っているものの、依然高値で推移しています。今回はこの現象の背景にあるものを分析してみたいと思います。


【新車ディーラーやSSが不正問題で流出したユーザーの受け皿に】


 確かに業界大手の不正が相次いで発覚したことでユーザーの目が厳しくなり、中古車の販売や買取に影響が出始めたことは事実だと思います。特に当事者の実績は大きく減少していることは明らかで、1社については、以前小売市場で1割超のシェアを持っていたと言われていますから、全体に与える影響は必至です。しかし全体の登録台数は落ちていません。これは問題のあった店から流出したユーザーを受け入れている受け皿となった店があったからだと思われます。その第一が新車ディーラーです。某業界紙が8月に行った調査によりますと、「中古車販売の領域が拡大している」と回答したディーラーが数多くあったとのことです。新車ディーラーも以前は不正車検で問題になった企業もありましたが、やはり世界的なブランドを冠にしている強みで、安心感と信頼度の高さが決め手になっているようです。次にくるのは、意外に思われるかもしれませんが、燃料販売のSSです。近年、SSでは油外事業を強化し、中古車の販売、買取事業の展開をしています。「こんな身近なところで、安心して中古車を購入できるところがあったのか」と今回の不正問題がSSを見直すきっかけにもなったようです。あと、地方で長年、地域に根付いて、トータル的なサービスを展開し、信用を構築しているような店や、今回問題になっていない全国的にブランド力のあるFC店などは、上向いているとは言わないまでも、これまでの好調さを維持しているようです。要するに、地方で何のブランド力も持たず、販売なり買取を専門で行っているような単独店は、今回の不正問題の影響を受けて、窮地に追い込まれているようです。


 ちなみに中古車登録・届出台数は仕入時の一時的な登録や業者間取引なども含まれますので、イコール小売台数ではなく、断定的にはいえませんが、傾向は表していると思われます。



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2022年vs2023年1月~9月累計中古車登録・届出数比較

【今後新車ディーラーの目詰まり状態が解消されると相場は下降傾向に】


 中古車相場が依然高値で推移しているのは、先述したように中古車の登録台数が落ちていないこともありますが、一方では新車販売が好調の割に、中古車の発生量が少ないことも要因の一つにあります。実は多くの新車ディーラーでは、登録は済んでいるものの、ナビゲーションやエアロパーツなどディーラーオプション系が遅延していて、納車が1~2ケ月程度遅れてしまい、目詰まり状態になっているようです。今後、この目詰まりが解消されていくと下取車が中古車市場に大量に流れてくるので、そうなると国内需要を上回る供給量となり、相場は下降傾向に突入する可能性があります。

 ただ、次項でも紹介していますが、現在、中古車輸出が絶好調で、8月にロシアへ追加制裁を発動しましたが、他の仕向国がカバーしており、好調さを維持しています。輸出のポテンシャルがどこまであるかによりますが、暴落するまでには至らないと思われます。



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2020年~2023年10月までの中古車相場推移

ここがPOINT!

 業界全体としては、今のところデータ的には大きなダメージにはなっていないようですが、とは言え、社会的に中古車事業者への信用が著しく失墜し、イメージダウンしていることは事実だと思います。前回ご紹介した支払総額表示制度導入を機に、業界を挙げてユーザーからの信用、信頼の回復を図っていきたいものです。


3 どうなってるの中古車輸出

【中古車輸出はかつてない盛況を呈し記録更新は確実】


 8月の中古車輸出はロシアへの追加経済制裁によって、大幅なダウンが予想されていましたが、蓋を開けてみれば、月間実績は12万3575台と8月単月の記録としては過去最高を更新し、累計でも99万5383台と今年4ケ月を残した時点で、すでに100万台近くに到達するなど、まさに記録ずくめで、中古車輸出はかつてないほど盛況を呈しています。この勢いは今後も続き、今年は記録を更新することは、ほぼ確実な情勢です。今回はこの好調の要因と今後の動向をレポートしてみます。また併せて、最近判明したこととして、ロシアの輸出業者は制裁対象となった中古車の輸出を諦めていなかったことが明らかになっています。その実態にも迫ってみます。


【好調の要因は円安、国内中古車流通量の拡大、コンテナの改善、リスク分散】


 ロシアについては、確かに制裁の影響を受けて、大幅な減少となりましたが、意外にも他の仕向国が絶好調だったことで予想を反しました。輸出全体の86%を占める上位25ケ国のうち、8月だけでみると前年を下回ったのはロシアを除いて、フィリピン(商業車のみ輸出)とバングラデシュのわずかに2ケ国に過ぎず、22ケ国は軒並み大幅な増加となりました。中には前年同月の2倍、3倍、4倍と増えた国も出てきています。結局のところ、ロシアの減少分は、他の仕向国が吸収した上で、さらに余りあった結果だと言えるでしょう。

 好調の要因としては、第一に挙げられるのは、やはり昨年10月以降から続く為替の影響です。一時は円高に振れ、年明けは1US㌦=130円でスタートしましたが、今や150円近くにまで達し、輸出者にとっては、安く仕入れられることになるので、バイイングパワーが拡大することは至極当然のことであります。第二に日本国内で新車販売が改善され、中古車流通量が拡大していること。第三にはコンテナの供給量拡大と運賃の値下げが挙げられます。そして第四としてはリスクが分散されていることです。過去最高を記録した08年はロシア一国だけで、56万3369台が一年間で輸出され、あくまでもロシア頼みであったのに対し、今年は、多くの仕向国が好調で、例え、低迷する国が発生しても、他の国が十分にカバーできていることが強みになっています。この傾向は今後も継続されるばかりか、これまで低迷していた数少ない国も、年後半に回復が期待できますから、初の140万台超えも視野に入ってきています。


【韓国への中古車輸出が増加、ロシアへの再輸出か!?】


 ところで、ロシアへの追加制裁を発動してから2ケ月以上が経過していますが、輸出禁止となった規制対象車が、第三国を経由してロシアへ再輸出されている兆しが見受けられれます。その経由地はどうやら韓国のようです。韓国は19年4月から、当時、日本製品の不買運動もあり、日本の排出ガス基準の輸入車の国内登録を禁止し、それによって中古車輸入はほぼ止まっていました。ところが別表の通り7月から増加しはじめ、9月実績はこの原稿を執筆している段階では、貿易統計が発表されていないので不確かではありますが、関係筋の情報をまとめますと、どうやら300台近くになっているとのことです。車両についても、ハリヤー(ZSU60W 18~20年)、ランクルプラド5D(GDJ150 18~20年)、ノートeパワー(HE12 18~19年)と言った車種が多く、まさしくこれはロシアへの規制対象車であり、韓国では国内登録できない車両です。ちなみに現在、韓国ではロシアへの追加制裁には踏み切ってないため、5万US㌦以下の車両であれば、通関し関税さえ支払えば再輸出することは可能です。従って、かなり高い確率でロシアへ再輸出されていると推測されます。

別表 2023年日本から韓国への中古車輸出実績月間推移&予想


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2023年1月~8月累計中古車輸出台数実績

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2023年8月中古車輸出台数実績

ここがPOINT!

 仮に今後、韓国が追加制裁に踏み切った場合ですが、そうなるとロシアへ再輸出はできなくなりますから、改めて経済制裁が行われていない第三国を探し、再輸出してくると思われます。それだけロシアの需要は底固いものがあることを実感させます。ただ、税関の仕向国申告はロシアとはならないので、実態がわかり難くなるのも事実です。


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