業界レポート12月号 Vol.61
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- 2024年11月28日
- 読了時間: 10分
更新日:2024年12月12日

本レポートでは、オークネット会員様のビジネスのお役に立てますよう大きなターニングポイントに差し掛かっている自動車産業にフォーカスした情報をタイムリーにお届けします。
執筆・編集:特定非営利活動法人 自動車流通市場研究所 理事長 中尾 聡
▼目次
【2024年新車販売の振り返り】
【2024年中古車流通の振り返り】
【ロシアの現地最新情報(後半)】
1 自動車流通のトレンド
【2024年新車販売の振り返り】
24年の新車販売は、本来であれば、年間を通じて新車の供給制約が緩和し、20年以降で最多の販売台数となった昨年23年の実績477万9086台に同等もしくは、これを上回ると、筆者は昨年の今の時期まで予想していました。
しかし、昨年12月下旬のダイハツから始まり、今年6月のトヨタ、ホンダ、スズキ、マツダが、そして7月には再びトヨタで認証不正が発覚するなど不祥事によって、予想を大きく覆す一年となりました。今回はそんな波乱に満ちた一年を、改めて振り返ってみたいと思います。
【認証不正問題によって大きく揺れた2024年の新車販売】
まずは表①をご覧いただきたい。年明け1月から4月までが前年を大きく下回っています。
表①2023年vs2024年 新車販売台数月間推移比較

これはやはり、通年でも最も軽自動車の新車が売れる時期に、ダイハツの工場が停止し出荷できなかったことが大きく影響したと言えます。ただ順次生産を再開し、5月初旬に全工場で再開、納車が始まりだすと回復し始め、7月には全体で前年を6.9%上回るまでになりました。ちなみに、同月のダイハツの販売台数は4万2046台と前年同月比では31.5%増と大幅な伸びを示しています。前年を上回るのは23年の10月以来、実に10ケ月ぶりのことです。ただ8月以降は再び、1~5月ほどのダメージではありませんが、同比で10%から20%の範囲でマイナスに推移しています。残り2ケ月も同じように推移すると思うのですが、気になるのは10月末から主力の軽乗用車「タフト」など8車種以上で、11月から規制が強化される安全・環境性能に適合する改良が(後方を確認できるカメラを取り付けなど)間に合わず、生産を停止するようです。これについてダイハツでは「多少の納期遅れは出る」としているものの、「受注に大きな影響がないところまで停止期間を縮められる」と表明しており、影響が限定的であることを期待したいところです。
一方、トヨタについては、9月に「カローラ フィールダー」、「カローラ アクシオ」、「ヤリス クロス」の3車種が生産を再開し、残すところ、11月中旬に現行モデルの受注を再開予定している「ノア」「ヴォクシー」となりました。このように不正対象車両が概ね生産を再開したことで、10月の登録車販売は10カ月ぶりに前年を上回っています。
【24年新車販売台数の見込みは、危険水域をわずかに割り込む449万2179台】
結局のところ、24年の新車販売は、認証不正問題によって、トヨタが20万台、ダイハツが23万台、合計43万台分の新車販売の機会が喪失されたとみています。ただ、そのうち約35%にあたる15万台分をホンダとスズキが受け皿になって、前年を大きく伸ばすと言った、過去に例をみない異常な一年であったのではないでしょうか。
具体的な通年での見込ですが、軽自動車が前年比10.1%減の156万9141台、登録車が前年比3.7%減の292万3038台、合計で前年比6%減の449万2179台と分析しています。コロナ禍で部品供給などが滞り、低迷した21年、22年よりはましですが、危険水域と言われる450万台は割り込むものと予想しています。
表②主要ブランドの1月~10月までの累計販売実績と前年増減比

表③直近5年間の新車販売台数推移と2024年見込み

ここがPOINT!
自動車産業の川上である新車販売が、今回のような現象が生じると中古車発生量も減少します。反面、国内および海外の中古車需要は旺盛で、需給のバランスが大きく崩れ、次項でも紹介しますが、異常とも言える中古車相場を発生させています。このようにアフターマーケットにも大きな影響を及ぼす新車販売が25年は正常化することを期待したいところです。
2 中古車流通のあれこれ
【2024年中古車流通の振り返り】
前項でも述べさせていただきましたが、24年の中古車流通は新車販売の不安定さに大きく影響を受けた一年であったと言えます。中古車の発生は、基本、新車代替時の下取車ですから、新・中の市場は表裏一体の関係であり、これまでも11年の東日本大震災や最近でもコロナ禍で新車供給が低迷した時には、良くも悪くも影響を受けました。しかし、24年はそれ以上に影響が大きかったと筆者は考えます。今回はその点を含め、24年を振り返ってみます。
直近5年で中古車相場は2倍に、特に24年の上がり幅は異常!!
以前にも何度かご紹介し、直近でもVol.58で紹介していて、かなりしつこく感じられるかもしれませんが、「表①直近5年間の7日間移動平均の相場推移」を一見していただければ、今、中古車流通で何が起こっているのかを、ご理解していただけるのではないでしょうか。
表①7日間移動平均の相場推移グラフ(国産乗用車のみ)

第1回目の緊急事態宣言が発令された20年4月第一週に(注①)、中古車相場は底を打ちましたが、それ以降、時期によっては多少の上げ下げはありましたが、基本的に5年間中古車相場は上げ続けています。特に24年の上げ幅が異常で、9月の第1週(注②)には、20年の底値に対して2倍以上となっています。
相場もので直近5年間に、倍近くなった代表的なものとしては、日経平均株価(18000円⇒38000円)や金相場(g単位6600円⇒12600円)などがありますが、これらは過去にも同じような高騰を経験していますが、中古車相場では長い歴史の中でも初めての現象です。
この要因は、新車販売が低迷し、中古車発生量が減少している中、海外からの高年式の日本の中古車の旺盛な需要が押し上げました。特に表には見え難いロシアへの第三国経由の規制対象車の再輸出が、マレーシアなどに代表される高年式需要の高い多くの仕向け国と、熾烈な争奪戦が繰り広げられた結果だと分析しています。
【オークション実績でも24年は成約率、平均単価ともに急上昇】
それでは、昨年との今年のオークション実績で比較してみたいと思います。ちなみに今年は、9月までの実績に、残りの3ケ月は自流研の独自の計算による見込数値になります。
出品台数は、前年比では7.7%減、台数にすると61万台減少しました。しかし成約台数は、わずかではありますが、同比1.4%増で、7.5万台増やしています。これによって、成約率は一気に6.5㌽も急上昇し、通年では初めて70%超えの71.5%となり、過去最高を記録しました。
また、平均落札価格ですが、表①はあくまでも国産乗用車のみですが、輸入車や商業車も含めたオークションで成約されたすべての車両の平均単価も164千円もアップして888千円となり、この一年間で急激に上昇しました。確か80年代後半のバブル絶頂期に、まだ代替サイクルも短かった頃ですが、90万円前後を記録したことがあったと筆者は記憶していますが、現在手元に残る94年以降のデータでは94年の782千円が最高額となっています。
以上のようにオークション実績をみても、今年一年は異常な一年であったと言えるのではないでしょうか。
表②オークション 2023年実績vs2024年見込

ここがPOINT!
このところ新車販売は前年並みまで回復していますから、今後は中古車発生量も増加し、これ以上、中古車相場が上がることはないと考えていますが、ただ、今後は海上運賃の低下(特にコンテナ)が予想され、低年式車需要の高い国の需要が強まる気配が感じられます。従って、オークションの成約率については引き続き上がるのではないかと見ています。近年は海外需要の動向が中古車流通に影響していますので、中古車輸出の動向にも注視していただければと思います。
3 どうなってるの中古車輸出
【ロシアの現地最新情報(後半)】
今回も前回に続き、ロシアの現地最新情報をお届けします。これまではロシアをテーマとする場合、日本から極東地域への中古車輸出が中心でしたが、今回はロシア全体の中古車市場の現状と今後の動向について、お伝えします。
【ロシアの中古車市場は未だ日本を含め、西側ブランドが圧倒的多数を占める】
まず、あまり目にする機会は少ないと思いますが、表①の「23年のロシアのブランド別中古車販売台数実績」をご覧ください。
表① 2023年ロシアのブランド別中古自動車販売台数

意外にも昨年1年間でロシアでは569万2955台と多くの中古車が販売されていた。(前年比で17%増)そのうち、日本の3ブランド(トヨタ・日産・ホンダ)を合わせると116万2287台と全体の20.4%を占め、国産車のラーダ(22.1%)に次ぐ規模で、相変わらず日本車の人気の高さが伺えます。
このうち、日本から輸入された中古車は22万台弱、これは右ハンドル車で極東地域を中心に流通され、残りの95万台弱は、撤退以前に同国で生産もしくは輸入された新車の代替車両(下取車)で、ウラル以西で販売された左ハンドル車です。
話をランキングに戻しますが、トップのラーダ以降、2位から10位までは日本をはじめ韓国や欧米のブランドが占め、この時点では中国ブランドは入っていません。しかし前回紹介した同じ23年の新車販売(乗用車のみ)については、トップのラーダは変わりませんが、2位~7位までは中国ブランドが占めていて、新・中でブランドが大きく異なっていることが認識できます。

【中国ブランドが新車市場には一気に参入したが、中古車市場での評価は!?】
これはやはり、ウクライナ侵略によるに西側諸国の経済制裁が要因と言えます。22年以降、西側諸国の各ブランドはロシア国内での生産及び輸入を停止し、同国から撤退しました。それによって、西側ブランドが一気に消失し、通年での新車販売(商業車含む)は80万8604台と前年と比較し半減しています。西側が撤退(一部撤退が遅れているブランドもあるが)したことで、それに入れ替わったのが国産車の躍進と中国ブランドの進出で、23年には131万7438台まで回復を遂げました。(前年比で62.9%増)
しかしながら、中国ブランドは俄かに進出してきた存在であり、同国内の自動車保有台数としては、未だに西側ブランドが圧倒的なシェアを誇っています。従って、新車の4.5倍の流通量のある中古車については、西側の人気が高いのは頷けますし、今後絶対数が減少するのは必至ですが、それでもしばらくの間、中古車に関しては、日本車をはじめ、西側が上位を占めることが見込まれます。
ただ注視しなければならないことは、数年後中国車の代替が始まり、中古車が流通するようになった時、どのように評価がされるかです。その評価が仮に高ければ、日本車の需要が減退する可能性はあります。ただ、新車においては進出から2年が経過していますが、すでに頭打ちの状況にあるようです。未だ保有台数の絶対数と実績のある日本車に果たして太刀打ちできるのか、見ものです。
表② ロシアでの新車登録台数の直近5年間の推移(商業車含む)

ここがPOINT!
現在ロシアの新車市場は中国ブランドが半数を占めるまでになっています。ロシア国民にとって、21年までは6割以上占めていた西側ブランドが、いきなり消失し、国産車か中国車の選択肢しかない現実に幻滅し、消費が低迷しているような気配がみられます。その裏付けとして、日本車をはじめ、欧米車の規制対象である高年式車が第三国を経由してロシアに再輸出されている実態があります。正確な数値は判明しないものの、筆者は今年だけでも日本から5万台は再輸出されたと見込んでいますが、それだけロシアの新車ユーザーが、選択肢の狭さにうんざりしているということではないでしょうか。
2024年12月号








