業界レポート5月号 Vol.66
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- 5月1日
- 読了時間: 11分

本レポートでは、オークネット会員様のビジネスのお役に立てますよう
大きなターニングポイントに差し掛かっている自動車産業にフォーカスした情報をタイムリーにお届けします。
執筆・編集:特定非営利活動法人 自動車流通市場研究所 理事長 中尾 聡
▼目次
【トランプ大統領の関税政策が及ぼす日本の自動車産業に与える影響PARTⅡ】
【マイナス成長感が漂う中、今後の中古車相場の気のなる動向】
【中古車輸出全体は好調に推移しているが、極端な二極化の現象が】
1 自動車流通のトレンド
【トランプ大統領の関税政策が及ぼす日本の自動車産業に与える影響PARTⅡ】
前回のレポートをリリースした直後の4月3日、実際に米国トランプ大統領は日本を含むすべての国や地域から輸入する自動車に対して、25%の追加関税を発動しました。(自動車部品に関しては5月3日までに適用)それから約1ケ月、時間の経過とともに、影響も出始めています。今回も前回に引き続き、暴挙ともいえる米国の関税政策に対する影響についてレポートします。
【影響が出始めているのは米国 製造業の復活どころか衰退の気配】
現時点で影響が顕在化しているのは、どちらかと言えば米国の方で、すでに新車の平均価格は5万㌦弱(日本円で約700万円)まで高騰しているようです。米国の調査機関の報告によれば、この追加関税によって、25年米国内の自動車メーカーは約1080億㌦のコスト増をもたらすという途方もない分析を発表しています。さらに、自動車部品まで適用するようになれば、米国内で生産される自動車にまで広がります。それらのコストのほとんどは、消費者に転嫁されますから、そうなると米国民にとって、自動車は手の届かない商品になってしまいます。さらにこれが米国内の工場閉鎖や雇用喪失を引き起こし、本来、トランプの真の狙いである“製造業の復活”が、自動車産業については復活どころか、逆に衰退する気配になっています。
4月9日に相互関税を発表し、その13時間後には、90日間の停止(10%の相互関税はそのまま)をし、現在日本をはじめ各国と交渉をしている最中ですが、90日後でも、多くの識者の見解では、自動車関税の25%については、見直しは厳しいとのこと。しかしながら、自動車部品については、現在米国内で業界団体の反発が厳しく、これについては90日以内に「ひょっとすると」と言う動きもあるかもしれません。

【暴挙とは言え、投げられた球を打ち返すには。。。】
暴挙とは言え、投げられた球を打ち返さなければならないのが日本の立場です。自動車メーカーや大手自動車部品サプライヤーと中小の自動車部品サプライヤーとは異なる点がありますが、概ね次のような対応が図られると思われます。
<自動車メーカー&大手自動車部品サプライヤー>
①国内供給の見直し(拡大)と輸出先の分散
②米国内での生産拡大
③USMCA(米国・メキシコ・カナダ協定)内での現地調達率引き上げ
④合理化によるコスト削減
①については、短期的に国内需要に対して供給が満たされていませんから、そこを充実させるような見直しを図り、さらに米国以外でも需要の高い欧州などへ輸出先を分散し、米国への減少分を充当します。長期的には②③のトランプ大統領の目論見に合わせざるを得ないのが現実のようですが、日本国内での生産の空洞化を引き起こすリスクがあります。④については限界がありますが、対応しなければならないようです。ただ近年は設備投資の強化や賃上げが図られて、良い流れだっただけに、水を差す形になります。
<中小自動車部品サプライヤー>
①経済産業省の中小企業向け支援策の活用
②元請けとの情報連携強化
自助努力だけでは、何ともし難い中小企業としては、やはりここは国が提供する支援策を最大限活用することが、この難局を乗り切る手段だと思います。
ここがPOINT!
最近は関税の引き上げだけにとどまらず、非関税障壁の撤廃を求めて無理難題を押し付けてきています。仮にこのような非関税障壁をすべて撤廃したとしても、すでに日本市場から撤退している米国自動車メーカーがいる中で、再び米国車が日本市場で隆盛を極めるとは到底思えません。こんな非現実的な政策が長く続くことはないでしょう。米国内で本格的に影響が出るのは夏から秋にかけてと言われています。そうなるとトランプ大統領が気にしている株価が暴落し、支持率が一気に低下します。一年後に中間選挙を控え、ドラスティックな方向転換をするのではないかと期待しています。
2 中古車流通のあれこれ
【マイナス成長感が漂う中、今後の中古車相場の気のなる動向】
今年の中古車相場は、年明けから異次元であった24年の中古車相場を10万円ほど上回ってスタートしましたが、その後、2月第二週に高値をつけた以降は、下降局面に突入し、3月最終週には底を打ちました。そして4月に入って、わずかながら上昇に転じています。この傾向は例年通りの動きですが、ここにきて異次元であった前年は流石に下回ってきました。通常であれば、これから8月の第一週まで相場は上昇していきますが、今年は果たして、どうなるのか、何となく、トランプ大統領の関税政策で世の中にマイナス成長感が漂う中、今後の気になる相場の動向を考えてみたいと思います。
【一車種の暴落を除けば、緩やかな下降であった前半の中古車相場】
4月第二週に異次元だった前年の中古車相場を下回りましたが、それでも依然として高値を維持しています。この背景には、やはり好調な中古車輸出の需要が押し上げていると思います。
また2月初旬から3月下旬に掛けての下降率ですが、これも例年と比べ、さほど変わりはありません。ただ、内容的には例年とは大きく異なっているようです。具体的に言うと、アルファード/ヴェルファイアの暴落です。台数的には市場全体に占める割合は大きくありせんが、何分落札価格が一時はプレミア価格で、新車価格をはるかに上回っていましたから、相場に与えるダメージは大きく、この暴落が全体を押し下げたと考えられます。昨年後半からこのアル/ヴェル相場の下降傾向は表れていましたが、国内において年末年始には比較的に売られ、年明けに在庫補充があったことや、輸出においてもアル/ヴェルの需要の高いマレーシアが1~2月好調だったこともあって、一時的に上昇し、全体の相場も異次元を上回るスタートとなりましたが、2月中旬以降は、再び下降し、全体を押し下げています。見方を変えますと、全体の相場からアル/ヴェルを除くと、下降率は例年よりも緩やかだったのではないかと思われます。
あと供給面で見ますと、前年は自動車メーカー各社の認証問題で新車供給が滞り、下取車(中古車)の発生量が減少しましたが、今年は正常化していることで、中古車の発生量(オークション出品台数)も増加し、それに対して、成約率は2㌽ほど下げていますが、成約台数はわずかに増やしていることからも、需給バランスは正常であり、その結果、一車種を除けば、例年より緩やかな下降だったのだと考えます。
直近5年間(2020年~2024年)オークション平均落札価格月間推移

【相場に大きな影響を及ぼす国内中古車小売と中古車輸出の今後の行方】
さて、今後の気になる中古車相場の動向ですが、相場形成に大きく影響することとして、次の二つのポイントが挙げられます。
①国内中古車小売の動向
②中古車輸出の動向
まず、今後の小売りの動向についてですが、前年は前述したように新車供給が停滞していましたので、新車の代替ユーザーが中古車にシフトするなど、久しぶりに中古車の小売台数は増加しました。先般発表されたリクルート社の「中古車購入実態調査2024」の結果では、309万8千台と大幅な増加となっています。(23年は227万台)それに対して今年は新車が正常化していることや、昨年の反動もありますから、減少は避けられず、その点では相場へのマイナス要因となりそうです。
一方、中古車輸出ですが、
プラス 材料 | ・新車販売が正常化し、中古車発生量が拡大 ・海上輸送で供給増加と価格の低下 ・スリランカの復活 ・低年式需要の高い仕向け国の台数拡大 |
マイナス 材料 | ・円高傾向の加速 ・高年式需要の高い仕向け国の不安定さ ・リセッションしている仕向け国の減少加速 |
以上のようにプラス面もマイナス面も考えられますが、どちらかと言えば、プラス面が効果を発揮し、今後の相場を支えると期待されます。
ここがPOINT!
今回のこの項目をまとめるとすると、小売りは減少が予想されることから、今後年内は異次元だった前年を上回ることはないと考えます。しかしながら、引き続き、底堅い中古車輸出の需要は今後も見込まれることから、22年、23年の相場まで落ち込むことはなく推移していくと思われます。
3 どうなってるの中古車輸出
【中古車輸出全体は好調に推移しているが、
極端な二極化の現象が】
このところ2年連続で過去最高記録を更新し、好調が続く中古車輸出。今年に入っても、その勢いが止まることはありません。しかしながら、仕向け国別にみると好不調の波が際立っている国が多く見受けられます。過去において、ここまで極端に二極化したことは、なかったのではないでしょうか。そこで今回は直近3ケ月(24年12月~25年2月)の実績を基にこの気になる動向を調べてみました。
【コンテナ運賃が急落し、アジアのコンテナ輸送主流の仕向け国が躍進】
表①に示したように、このところ好調なのは、アジアやアフリカの国々で、特にアジアで輸送形態がコンテナ輸送の国が絶好調です。この背景には、今年に入ってからコンテナ運賃が急落していることがあるようです。昨年はコンテナ運賃が乱高下し不安定な一年でしたが、今年は年明けに平均運賃が4000US㌦でスタートし、3月後半には2000US㌦付近まで下げ続けています。一時、昨年の7月には、バイデン前大統領が中国に対して関税を引き上げた際、6000US㌦まで高騰していましたから、かなりの下げ幅になります。
具体的にトップのタイと4位のミャンマーについてですが、タイに輸出される中古車は、ほぼミャンマーへ再輸出されるため、両国へ輸出されているのは、ミャンマーの需要だと言えます。同国の需要が高まっている要因は、12年から19年まで大量の日本の中古車が輸入されていましたが、その車が今や経年劣化し、代替えの需要が高まっているからです。そこにコンテナ運賃が急落し、台数を拡大させています。しかし、周知の通り、3月28日に同国第二の都市であるマンダレー付近を震源とするマグニチュード7.7の大地震が発生しました。4月以降は震災対応に追われ、一時的に台数は減少すると予想されますが、数ケ月後には、本来の需要に復興需要も加わり、台数を押し上げてくるのではないでしょうか。
それ以外にも、商業車ですが5位のフィリピン、6位のパキスタン、またアジア以外でも7位の中南米のチリ、10位のアフリカのナイジェリアと言ったコンテナ輸送が主流の仕向け国がそれぞれ台数を増やしています。
あと注目すべき点は、ランク外の12位ですが、スリランカが5年振りに復活し、急上昇している点です。表①の数値は、実働が2月後半の半月だけの実績ですが、すでに前年同期比で1025台も増加させています。
表①直近3ケ月(24年12月~25年2月)輸出台数上昇国トップ10

【ロシア関連が米国の新たな経済制裁によってブレーキが。。。】
一方、表②に示した下降国については、ほぼロシア関連が占めています。ロシア関連とは、ワースト1位のロシアへ直接輸出される非規制対象車と、3位のモンゴルや4位のジョージア、一部ですが6位のUAE、8位の大韓民国と言った第3国を経由してロシアへ再輸出されている規制対象車のことを示しています。
ロシア関連が低迷している要因としては、昨年11月に米国がロシアの大手銀行ガスプロムバンクなど複数の金融機関に対し、新たな経済制裁を加えたことで、ルーブルがウクライナへ侵略を開始した22年3月中旬以来の安値になったことや、同月初旬にロシアが発動したリサイクル税の引き上げの影響だと考えられます。
ただ、ロシアに関しては、これまでも何度か経済制裁を受けてきて、その都度、台数は落ち込みますが、数ケ月も経過すると再び戻してくる傾向があります。今回はロシア側のリサイクル税の引き上げで、少し長い気もしますが、ルーブル安が昨年末に底を打ち、すでに現時点(4月中旬)では制裁前よりも高値となっていることを考えれば、ロシア関連に関しては、今後持ち直してくると思われます。
逆に回復が期待できないのが、長年仕向け国上位常連国であったニュージーランドです。同国は深刻なリセッション(景気後退)に陥っています。しばらくは台数減少に歯止めが掛かりそうにありません。
あと今後気になる国としては、やはり米国ではないでしょうか。昨年一年間で日本から米国に輸出された中古車は1万7508台ありました。これが大幅に減少することは避けられないでしょう。ただ、中古車輸出全体に占める割合としては極めて少なく、また同国向け中古車はカナダや欧州の国でも人気があり、他の仕向け国に振替が可能なため、中古車輸出にとっては、大きなマイナス要因にはならないと考えられます。
表②直近3ケ月(24年12月~25年2月)
輸出台数下降国ワースト10

ここがPOINT!
今回のトランプ大統領の関税政策によって、現在日本を含め世界各国が交渉している過程なので、一概には言えませんが、今後、世界各国から米国に向けた輸出が大幅に減速する可能性があります。そうなると、自動車専用運搬船を含め、RORO船の船腹やコンテナで空きスペースが増え、価格も下降する可能性があり、日本の中古車輸出にとっては、追い風になるかもしれません。
2025年5月号