業界レポート6月号 Vol.67
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- 6月2日
- 読了時間: 9分

本レポートでは、オークネット会員様のビジネスのお役に立てますよう
大きなターニングポイントに差し掛かっている自動車産業にフォーカスした情報をタイムリーにお届けします。
執筆・編集:特定非営利活動法人 自動車流通市場研究所 理事長 中尾 聡
▼目次
【トランプショックや日産のリストラなどネガティブ要素が漂う中、
2025年の新車販売の見通しは!?】
【上場企業の決算報告書から読み取る中古車市場の現状と展望】
【中古車輸出の成長を牽引するアフリカ地域に注目】
1 自動車流通のトレンド
【トランプショックや日産のリストラなどネガティブ要素が漂う中、2025年の新車販売の見通しは!?】
今年も早いもので折り返し地点に差し掛かっています。現時点では4月までの実績ですが、新車販売は4ケ月間連続で二桁伸長の実績を残し、好調に推移しています。しかしながら足元では、トランプショックの影響の行方や、また日産自動車では大幅なリストラなどネガティブ要素が漂っており、先行きは不透明です。今回はこうした状況の中で、敢えて25年通年での新車販売の見通しをレポートしてみたいと思います。
【25年1~4月新車販売実績は二桁伸長ながら、正常時の23年対比ではマイナス】
近年、新車販売については、23年にコロナ禍でのダメージから回復を遂げたものの、24年は自動車メーカー各社の不祥事によって再び危険水域に陥り、そして今年は、回復に向けて再び動き出すなど、乱高下の激しい状況になっています。
現時点では、年間で最も新車需要の高い1月から4月までの実績が発表されていますので、これをベースに、直近3年間と比較して、分析してみますと、25年1~4月までの新車販売の実績は162万8228台と前年比で13%の大幅な増加となりました。ただ前年同期は認証不正による出荷停止の影響が最も大きかった時期でしたから、冷静に判断すると、完全に正常に戻っているとは言い難い状況です。実際、正常時の23年と比較すると6%ほど、台数にして約10万台ショートしています。
ブランド別にみても、25年同期でダイハツは、台数が前年に対して3倍近くアップしていますが、23年対比だと約5.5万台も足りていません。トヨタも前年比で118%と健闘していますが、23年対比では、8万台弱及んでいません。トヨタについては、一部車種において、受注停止しているものもあり、生産が正常化されていないように思われます。それ以外にも、認証不正の問題があったブランドは同じように前年は上回っているものの、正常であった23年に比べると落ち込んでいます。一方、スズキ、ホンダは前年並みですが、前年はダイハツをはじめ認証不正のあったブランドのユーザーの受け皿になったことで、台数を大幅に増やしていて、その実績を維持していると言うことであり、十分健闘していると言えるでしょう。実際に両ブランドは23年対比では10%以上アップしています。
1~4月新車販売台数 直近3年の実績推移

※25年通年の台数はあくまでも自流研の予想
1~4月新車販売台数 ブランド別直近3年の実績推移

【トランプショックは国内新車販売にはプラスに転じる!?】
さて今後の見通しですが、まずトランプショックについては、すでに自動車や部品に関しては追加関税が発動されていますが、実際にどのような影響が出ているのかは、正直、現時点では見え難い状況です。ただ、24年に米国に137万台輸出されていた自動車が大幅に減少することは確かだと思います。この減少分を、如何に国内供給に振り替えるかによっては、現在、供給が追いかず、受注停止になっている車種もありますから、国内新車販売については、ショックではなくプラスになる可能性があります。
一方、大幅なリストラを実施する日産については、ネガティブニュースが続いていて、すでに客足は遠のいているようです。実際、1~4月の実績でも前年比88.6%と落ち込んでいます。「5月末に方向性を出す」とのことですが、それが出されると益々販売台数が減少するのではないかと懸念されます。
ここがPOINT!
結論からすると、25年1~4月までの新車販売の実績は、前年同期が酷い状況だっただけに、思った以上の回復にはなっていないと言えます。これから先は、前年が回復傾向に入りましたから、二桁伸長は難しいでしょう。筆者は、年初に25年の新車販売台数は23年並みに回復すると見込み、480万台としていましたが、トランプショックがどう動くは未知数なので、460万台に下方修正するのが現実的かと考えています。
2 中古車流通のあれこれ
【上場企業の決算報告書から読み取る中古車市場の現状と展望】
唐突ですが、上場企業は決算期末後45日以内に決算報告を公表しなければならない「45日ルール」があります。日本の企業の多くは、3月末を期末とする企業が多いので、4月中旬には各社決算報告を発表していますが、その中には中古車小売を主要事業としている上場企業もあり、この間、決算報告を発表しています。そこには市場の中・長期の見通しや各社の事業戦略なども含まれていて、興味深いものがあります。今回、一部だけ紹介してみます。
【A社の決算発表から】

✓ 営業利益は過去最高益、小売台数は過去最高台数を記録。
✓ 小売台当たり粗利は、年央から中古車相場が下落する中で予想以上の水準で粗利を確保できた。
✓ 展示車両の強化と相場変動リスクのバランスを常に鑑み、小売台数の最大化に向けた効率的な在庫管理を実施。結果的に在庫回転日数が大幅に改善。
✓ 小売台当粗利の構成としては、車両利益が50%、車体コーティングや保証、メンテナンスパック等の付帯商品が25%、保険やローンなど金融商品が25%。
✓ 中期事業戦略として、22年から5つの主力付帯商品の付帯率を強化。
成果として、コーティング37%⇒52%、メンテナンスパック12%⇒33%、
長期性能保証15%⇒40%、ローン33%⇒30%、保険19%⇒21%
いずれも22年の実績に対して25年の実績。
【B社の決算発表から】

✓ すべての事業で前年比プラス成長
✓ 小売の台当たり利益は改善傾向(具体的数値の発表はなし)
✓ AAの台当たり利益は一定水準で推移(具体的数値の発表はなし)
✓ 下取・買取車のAA出品については、下取車の適正価格提示の徹底により、大きく改善。
✓ 今後の中古車市場の見通しとして、現状、日本の自動車市場は、中古車4割に対して、新車6割となっているが、欧米はその逆で圧倒的に中古車が占有している。
一方、10年前に比べると、新車価格は20%上昇したのに対し、労働者の賃金は4%しか上がっていない。
今後は新車ユーザーが中古車に流入し、中古車需要が高まりをみせ、欧米型の比率に近づいていくだろう。
ここがPOINT!
両社とも決算報告書は膨大な頁数になっています。あくまでも今回ご紹介したのは、ごく一部です。同業大手がどれほどの実績を上げ、どのような戦略を考えているかを知ることは、会員の皆様の経営にも役立つと思います。誰でもHPにアクセスしIR情報にみることができますので、参考にしてみてはいかがでしょうか。
3 どうなってるの中古車輸出
【中古車輸出の成長を牽引するアフリカ地域に注目】
近年、目覚ましい経済発展を背景に、日本からの中古車輸出需要が高まり続けるアフリカ諸国。今年も3月までの時点ですが、累計実績が前年同期に対して2割近くも伸ばし、中古車輸出全体を押し上げています。今回はこのアフリカ地域にフォーカスし、成長の要因を探るとともに、今後の動向をレポートしてみます。
【多くの国が「リープフロッグ型発展」を遂げ、 日本の中古車需要を拡大】
前回のレポートでも紹介していますが、過去最高を更新し続けている絶好調の中古車輸出ですが、実は全地域が良いわけではなく、好不調が2極化しています。表①の地域別実績を見てもわかるように、好調なのはアフリカ、アジアの2地域だけであり、中南米、中東、西欧が前年並み、残りの北米、中東欧・ロシア、大洋州に至っては、大幅な減少に転じているのが実状です。
表① 2025年1月~3月中古車輸出台数累計地域別実績

従って、全体として好調な実績を支えているのは、アフリカとアジアと言うことになりますが、アジアについては、5年振りに復活したスリランカや大地震に見舞われる前のミャンマーとタイ、あとパキスタンなど、好調な仕向国数は限定されているのに対して、アフリカは、多くの仕向国が好調なのが特筆するべき点です。
それでは、なぜ今、これほどまでに同地域が好調なのか。その要因としは、大きく次の3つの点が挙げられます。
Ⅰ アフリカ地域の多くの国が「リープフロッグ型発展」を遂げていること
Ⅱ コンテナ、RO-ROとも海運事情が追い風
Ⅲ 日本国内における中古車流通量の拡大
Ⅰの「リープフロッグ型発展」とは、「蛙飛びジャンプ型発展」という意味ですが、要するに、古い状況から途中の過程を一気にジャンプして、最新の状況を実現していると言うことです。具体例を挙げると、近年のアフリカでは、電気も電話もPCもない状況から、一気にスマホを1人1台持つというような現象にまで経済が超加速度的な成長を示しているということです。それが日本からの旺盛な中古車需要に結びついています。表②にランキングした国の中でもタンザニア、ケニア、南アフリカ、ナイジェリア、ガーナといった国々はその代表的な国だと言われています。
ⅡとⅢについては、別段アフリカ地域に特化した要因ではありませんが、現在、世界的に海運事情がRO-ROもコンテナも需要の低下から船腹の供給拡大と運賃の低下が起きており、確実に追い風になっていますし、日本国内の供給量も昨年とは異なり、新車が好調に販売されていることで、下取車が増え、オークション流通量が拡大していることも好調の要因です。
表② 2025年1月~3月累計 アフリカ地域各国中古車輸出台数実績

【今後は右側通行左ハンドル国の需要に注目】
今後のアフリカ地域の見通しについてですが、やはり豊富な鉱物資源を背景に加速度的な経済成長が続くことは確実でしょう。
あと同地域で注目すべきは、右側通行左ハンドル国の需要が高まっている点です。表③をご覧いただきたい。9年前の15年と昨年24年の左ハンドル国へ輸出された台数の比較ですが、僅か9年でガーナは8倍、ナイジェリアは5倍、カメル―ンが4.5倍と桁違いに台数が増えています。以前は同地域への輸出と言えば、かつて宗主国が英国の東側や南側の国々に限定されていましたが、近年は西側、中央と言ったサブサハラ以南のアフリカ全域に需要が高まっています。
以上のように、同地域が全体を押し上げ、25年通年で初の160万超えはかなり高い確率で実現すると見込まれます。
表③ アフリカ地域 右側通行左ハンドル国2015年vs2024年実績対比

( )はアフリカ地域における左ハンドル国の台数割合
ここがPOINT!
今回紹介した実績は、あくまでも日本からアフリカ地域に直接輸出された実績ですが、これ以外にアラブ首長国連邦を経由して同地域に再輸出されている台数もかなり存在しています。それを含めると、輸出全体の約4割を占めています。早晩これが半数を占めると思われます。それだけ注目のエリアです。
2025年6月号








