top of page

業界レポート8月号 Vol.69

  • info-am
  • 7月31日
  • 読了時間: 10分

ree

本レポートでは、オークネット会員様のビジネスのお役に立てますよう

大きなターニングポイントに差し掛かっている自動車産業にフォーカスした情報をタイムリーにお届けします。


執筆・編集:特定非営利活動法人 自動車流通市場研究所 理事長 中尾 聡


▼目次


 2025年上期(1~6月)新車販売台数実績と気になる日産の行方


 2025年上期の中古車流通の振り返りと前回号トピックスの続報


 気になる中国中古車輸出の今後の行方


1 自動車流通のトレンド


【2025年上期(1~6月)新車販売台数実績と気になる日産の行方】


 今年もすでに上期が終了しています。7月1日に発表された上期の新車販売台数実績によりますと、認証不正問題で低迷した前年は上回りましたが、コロナ禍から回復を遂げた前々年と比較すると、減少となっています。今回この上期の実績を分析してみます。また7月15日に日産自動車が発表したリストラ策から、今後の気になる同社の行方についても、考えてみたいと思います。


直近3ケ年上期の新車販売台数推移

出所:日本自動車販売協会連合会 全国軽自動車協会連合会
出所:日本自動車販売協会連合会 全国軽自動車協会連合会

( )内は前年同期比増減率%


【上期の新車販売実績は前年同期を上回ったものの。。。】


 日本自動車販売協会連合会と全国軽自動車協会連合会が、それぞれ発表した25年上期の登録車と軽自動車の新車販売台数を合算すると234万5459台となり、前年同期比に対して、10.2%と辛うじて二桁増となっています。ただ前年はトヨタやダイハツが認証不正問題によって、工場の出荷が停止となり、新車販売が低迷していましたので、あくまでもその反動によるものであって、好調だった23年実績と比較すると4.3%の減少となります。

 ブランド別に詳しくみていくと、トヨタは同比13.8%増の72万4267台、ダイハツに至っては、前年のほぼ2.2倍の26万1963台と前年比だけを見れば大幅に改善しているように見えますが、しかし前々年はトヨタが82万6855台、ダイハツは31万2178台の実績がありましたから、それと比較すると両ブランド併せて15万台もショートしているのが実態となります。

 市場全体としても、実際に販売現場では物価高の波や金利上昇が消費者心理に逆風となっているようで、決して良い市場環境とは言えないようです。この状況が続くと、下期に向けて、前年比の上昇率は低下し、通年で前年比4%増の460万台あたりが着地点になるかと思われます。

 今後下期に向けて、鍵になるのは各ブランドとも新型車の投入です。主力車種の新型車を控えているブランドもあり、これが計画通りに進めば、上方修正も十分あり得ると考えています。


25年上期ブランド別販売台数

出所:日本自動車工業会
出所:日本自動車工業会

その他は輸入車 

( )内は前年同期比増減率%


【生産体制を国内5工場から3工場へリストラ策を発表した日産の今後】


 日産自動車は7月15日に追浜工場での生産を2027年度末までに、また日産車体湘南工場での生産を26年度までに終了すると正式に発表しました。これで同社の国内工場は今の5つから、九州2工場と栃木工場の合わせて3工場に集約されることになります。要するに残された3つの工場の稼働率を大きく上げることで生産コストを引き下げ、現在の販売台数でも利益が出せる体質にしたい考えのようです。言い換えれば、前年度6709億円もの最終赤字を計上した同社にとって、採算ラインを世界生産250万台レベルにまで下げるために生産能力を、まずは身の丈に合ったレベルにまで落とすことが避けられなかったかと思われます。

 ただ、250万台の生産でも採算がとれるようにするという今回のリストラ策は、最初の一歩であり、リストラしただけで、売れる車のラインナップが揃わなければ身も蓋もありません。日産には登録車として世界初の量産型EVとなった「リーフ」やラグジュアリーミニバン市場の先駆けとなった「エルグランド」を世に出したブランドです。「エルグランド」については、現行モデルの生産が25年8月に終了し、今年度中には、第3世代e-POWERやプロパイロット2.0などの先進技術を搭載し、再起を狙う重要な一台を市場に投入する予定のようです。こうした取り組みによって、「技術の日産」の再生を期待したいところです。


ここがPOINT!


 ダイハツは23年4月に認証不正が発覚して以降、3年振りの新型車となる7代目「ムーブ」を6月5日から販売を開始し、順調に販売台数を伸ばしているようです。日産も前述の「エルグランド」のほか、10月からはEV性能が大幅に向上したリーフの3代目を投入するとのことです。その他のブランドでもトヨタがRAV4(6代目)、スズキがワゴンR(7代目)、マツダもCX-5など各社ともに主力の新型車を市場へ投入する計画があります。こういった新型車の投入により下期の新車市場の活性化を期待したいところです。

 

2 中古車流通のあれこれ


【2025年上期の中古車流通の振り返りと前回号トピックスの続報】


 昨年上期の中古車流通は、認証不正問題で新車の供給が停滞したことによって新車代替ユーザーの受け皿となった高年式中古車に需要が高まり、また中古車輸出も好調だったことから、中古車相場は異次元の世界に突入したことを会員の皆様も強く記憶されていることと思います。それに対して、今年の上期を振り返ってみたいと思います。また前回、ご紹介したトピックスで動きがありましたので、続報をお伝えします。


【各種実績データから25年上期を解析】


 現時点で上期6ケ月分の実績が発表されているのは、唯一、中古車登録台数&届け出数上期実績(表①)だけですが、それを見る限りでは、中古車流通は良かったとされる昨年とほぼ変わりはありません。ちなみにこの実績だけでは、卸や小売りの内訳は判明しませんが、今年は新車販売が正常化していますので、中古車小売台数が減少していることは確実だと言えます。それがリアルに反映されているか否かは別として、帝国データバンクの発表によりますと、『今年1月から5月までに発生した、中古車販売店を経営する事業者の倒産は過去最多に迫るペースで推移している』とのことです。小売については需要が減退しているのに加え、物価やガソリンの高騰で中古車ユーザーの購買意欲が全体的に低下していると思われます。しかしながら、前々回Vol.67で紹介していますが、上場しているような大手中古車販売事業者の多くは過去最高益を更新していることも事実で、現状では2極化がかなり進んでいるのではないでしょうか。

 一方、上期には1ケ月分足りませんが、1~5月までのオークション流通実績(表②)と中古車輸出実績(表③)をみますと、異次元であった昨年の中古車相場を今年はさらに上回っています。特に年明けはオークション、輸出ともに高騰していました。従来の需給のバランスで言えば、新車が正常化し、下取車が大量にオークションで流通するようになれば、相場は下がる傾向になるはずですが、今年に限っては逆に高騰しています。これは近年の傾向と言えるのですが、中古車輸出需要の拡大によるものです。この需要が今後も変わることがない反面、下期については、新車販売台数が現状より減少し、それに並行してオークション出品量(下取車)も減少していきますので、相場はさらに高騰していくと予想されます。


表① 中古車登録台数&届け出数上期実績前年比較

出所:日本自動車販売協会連合会 全国軽自動車協会連合会
出所:日本自動車販売協会連合会 全国軽自動車協会連合会

( )内は前年同期比率%



表② オークション流通(1~5月)実績前年比較

出所:株式会社ユーストカー
出所:株式会社ユーストカー

表③ 中古車輸出台数(1~5月)実績前年比較

出所:財務省貿易統計
出所:財務省貿易統計

【前回号で紹介したトピックスの続報】


前回号の見出し

<米国がイラン攻撃参戦を匂わすことで日本の中古車相場に影響が!?>

 前回この原稿を校了した2日後に米国はイランの核施設を攻撃しました。そして、その後トランプ大統領は自身のSNS上で、イスラエルとイランの「完全かつ全面的な停戦合意」を発表しています。現時点でも中東情勢の根深い対立は解消されていないものの、ホルムズ海峡の閉鎖と言うことにはならず、結果的に日本最大の仕向け国であるアラブ首長国連邦や上位国パキスタンへの輸出の影響は回避されました。


<中古車の放射線量検査の気になる行方>

 前回号では「港での中古車放射能線量検査をめぐり、7月1日から全国各地の港で混乱が起きる可能性が高まっている」とお伝えしましたが、6月30日に港湾事業者と労働組合が「船積み拒否」をしないことで合意し、混乱は回避しました。また10月末を目途にこの検査を見直すとのことです。ただ10月末までの検査費用を誰が負担するかは未定となっています。


ここがPOINT!


 現在、中古車相場は年明けの異常な高騰からは落ち着きを取り戻していますが、依然高値で推移し、これが今後も継続すると思われます。資金的に厳しい中小の事業者にとっては、仕入負担が益々高まり、品揃えにも限界が生じ、台当たり利益も圧迫するなど負のスパイラルに陥るリスクが高まります。やはりこれからは販売だけに頼らず、いかに付帯商品を充実させていくかに掛かっているのではないでしょうか。


3 どうなってるの中古車輸出


【気になる中国中古車輸出の今後の行方】


 中国では2019年の5月に中古車輸出を解禁していますが、左ハンドル車と言うことや車両品質に対する仕向国の低評価、また部品供給体制の未整備などで、当面、日本の中古車輸出にとって、“脅威”には、ならないだろうと見込んでいました。しかし、近年はロシアを中心に台数を伸ばし、昨年は43万台規模まで急成長を遂げ、侮れない存在になっています。今回は今後日本の中古車に影響を及ぼしかねない中国中古車輸出の現状をレポートしてみます。


【中国中古車輸出の急成長を支えているのはロシア特需】


 中国では、新車、特にEVへの代替を促進する狙いで、下取した内燃機関車(ICE)を海外に輸出する出口戦略としてスタートしました。当初はナイジェリア、カンボジア、ミャンマーと言った仕向国に経年のICEが輸出されていたのですが、経年の上、修復歴の隠蔽や部品供給体制の未整備で、最初の3年間は低迷していました。ところが状況が一変しています。それは22年2月にロシアがウクライナへ侵攻を開始してからのことです。ロシアから西側諸国の完成車メーカーが撤退したことで、新車販売が低迷、その代替として、中国からの新車や高年式の中古車に需要が高まり、別表の通り、直近3年間で飛躍的な拡大を遂げています。ちなみに日本や韓国の中古車も同様の理由で、近年ロシア向けの輸出は増加しています。

 新車については、前回号で紹介した通り、今年に入ってブレーキが掛かっていますが、中古車に関しては依然好調に推移しているようです。


中国からの中古車輸出台数年間推移


出所:中国自動車流通協会
出所:中国自動車流通協会

※19年は5月~12月までの実績、23年24年は概算 


【中国の輸出全体を押し上げているコルガス自由貿易圏の存在】


 こうしたロシアの事情による特需的な要素はあるものの、一方では中国の一帯一路経済圏構想の進捗が、中古車輸出を押し上げている点も見逃せません。具体的には、新疆ウイグル自治区にあるコルガス自由貿易圏の存在です。同地は中国とカザフスタンの国境に接し、14年に経済特区として指定されてから、鉄道や道路などの整備が急ピッチで進み、中央アジアとヨーロッパに結びつく重要な貿易拠点に成長しました。ちなみにこのエリアの拡大は現在も続いています。

 この拠点があったことで、ロシアへの特需に対応ができ、またこれに刺激され、カザフスタンやウズベキスタンなどの中央アジア諸国、さらにはヨーロッパまで中国車の中古車需要が高まると言う現象が生じています。

 最近、この流れに勢いをつけている現象として、"移送ドライバー"と呼ばれる専門のドライバーが話題になっています。要するに自走方式で車両を輸送するスタイルですが、これによりコスト削減や効率化が進み、輸出競争力を強化しているとのことです。24年だけで、この方法により1億5000万元(日本円で約30億円)ものコストが削減され、多くの雇用も創出したということで注目されています。


近年、中国で巨大貿易拠点として開発が進む『コルガスの位置』

ree

ここがPOINT!


 現在日本からロシアへの中古車輸出は高い政策金利が影響し、今年5月までの累計実績では前年同期比で15.6%の減少となっています。一方、同じ状況下であっても中国からロシアへの台数は増加しています。これは政府間の関係や左ハンドルの優位性、価格競争力の違いなどがあるでしょう。ただ日本のロシアへの中古車輸出は、極東地域が主流であり、この地域に中国の中古車が流入してくる可能性は極めて少ないと思われますが、ウラル以西のロシアや中央アジア、アフリカなどの左ハンドル国への輸出に関しては、今後日本も中国の影響を受ける可能性が出ています。


2025年8月号

オークション・市場

​サービス一覧

東京都公安委員会 古物市場主許可第301001102112号 古物商許可第301001105434号 株式会社オークネット

bottom of page