業界レポート4月号 Vol.65
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- 3月31日
- 読了時間: 10分

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大きなターニングポイントに差し掛かっている自動車産業にフォーカスした情報をタイムリーにお届けします。
執筆・編集:特定非営利活動法人 自動車流通市場研究所 理事長 中尾 聡
▼目次
【トランプ大統領の関税政策が及ぼす日本の自動車産業に与える影響!?】
【総整備売上高が18年ぶりに6兆円超えに。令和以降では最大の伸び率!!】
【24年中古車輸出実績 日本VS韓国比較分析】
1 自動車流通のトレンド
【トランプ大統領の関税政策が及ぼす日本の自動車産業に与える影響!?】
現時点で、トランプ米大統領は、米国への輸入自動車に25%の追加関税を課す可能性を示唆しています。(現状は日本から米国への自動車輸出には2.5%の関税)仮にこの追加関税が発動されると、川上の日本の自動車生産に大きく影響を及ぼすことは当然のことですが、これが自動車業界全体、強いては日本経済に影響が波及すると予想されます。今回はこの影響について考察してみます。
【トランプ米政権の関税政策で、日本国内の自動車生産が年間で41万台減少!?】
トランプ米政権の関税政策を担うラトニック商務長官は3月14日、4月2日にも公表する自動車関税の対象に、日本車を含める考えを明言しています。トランプ大統領は、日本車の輸入の多さを問題視しており「25%程度」とされる自動車関税を、日本が免れるのは極めて難しい情勢にあります。
コロナ禍に見舞われた20年以降、新車輸出は総体的に台数が減少していましたが(収益的には円安効果で向上)、それでも24年は、日本から米国に輸出された新車は136万9063台もありました。日本国内の自動車生産台数が823万4645台でしたから、米国の輸出割合は16.6%にも上ります。
仮に関税が25%に引き上がった場合、米国内で消費者が負担する金額は車格、車種によって異なりますが、車両1台あたり50万円~120万円の上昇になると言われています。例えば、米国で人気のトヨタ「カムリ」だと現行が約3万ドル(円換算で450万円)ですが、これが約3万7500ドル(同約562万円)になる可能性があると言うことです。そうなると、米国の消費者は日本から輸入された新車を買わなくなります。具体的な数値では、最低でも3割は減少するとのことですから、日本から米国への輸出は最低でも41万台以上減少するとことが予想されます。これは国内の年間自動車生産において、5%程度の下押し圧力になりますので、影響は大きいと言えます。また自動車部品など中間投入にも波及し、その影響は計り知れません。
アメリカへの新車輸出の年間推移

【トランプ大統領は関税政策に加え、日本に対し円安是正も求める姿勢】
仮に自動車生産で最低でも年間41万減少するとすれば、まずこの生産に携わる工場作業員の雇用が失われます。それに伴って、工場周辺の地域経済にも影響を与えるでしょう。さらに工場から港まで自動車を輸送する物流業者や海上輸送を担う船会社にも影響が及びます。また、前述したように新車輸出に関しては、近年台数は減少していましたが、円安効果で自動車メーカー各社はその恩恵を受け、多くのメーカーが過去最高益を計上していました。しかし、その円安に関しても、トランプ大統領は日本に対し是正を求めています。それを考えると、これらが実際に発動された場合、日本経済において相当深刻な打撃になることが予想されます。
ただ、一方では、国内の新車販売が昨年、認証不正問題で大きく減少しましたが、現在その反動で、受注が増え、受注停止になる車種が増えています。輸出車両を生産する工場が容易に国内供給用の工場に転用可能なのかはわかりませんが、もし可能であれば、受注停止を解消できるかもしれません。とは言え、今回の米政権の政策は日本にとって、圧倒的に負の要因が大きいと言えます。そういった意味では、4月以降の動向をしっかり注視していく必要があります。
ここがPOINT!
米国が日本に自動車を輸出する場合、現状、日本側の関税は0です。関税が0であっても日本では米国車は人気がありません。従って、日本側が対抗策として同率の関税を引き上げたとしても何の意味もありません。今回のトランプ大統領の意図は、自国の自動車生産の復活にありますが、関税を引き上げたとしても、短期間で復活を遂げるとは考え難いです。任期中でも難しいのではないでしょうか。今や世界は、政治も経済もトランプ大統領一人に振り回されていますが、いよいよ日本もその渦中に引き込まれそうです。
2 中古車流通のあれこれ
【総整備売上高が18年ぶりに6兆円超えに。令和以降では最大の伸び率!!】
日本自動車整備振興会連合会(日整連、喜谷辰夫会長)は1月29日、「令和6年度(24年度)自動車特定整備業の実態調査結果」を発表しました。近年、部品不足や認証不正などを受け新車が長納期化していることで、継続検査や定期点検を受ける車両が増えていることから、ほぼすべての指標がプラスとなっています。今回はこの調査結果の概要についてレポートしてみます。
【整備売上は拡大傾向にあるものの、事業者の倒産件数は過去最多ペースに】
まず総整備売上高の実績ですが、(23年7月~24年6月までに決算が終了した事業実績)前年比5.9%増の6兆2561億円と3年連続で増加しました。6兆円超えは06年度実績以来、実に18年ぶりとなります。これは近年、部品不足や認証不正などを受け新車が長納期化していたこともあり、継続検査や定期点検を受ける車両が増える傾向にあったことや、加えて、車齢が延びていることで、経年劣化した部品の交換需要が拡大したことも影響したとみられます。
次に作業内容別の売上高ですが、「車検整備」は同比2.6%増の2兆5400億円、「定期点検整備」は同比3.1%増の4568億円でした。「事故整備」は同比9.6%増の1兆1198億円と3年連続の増加となりました。業態別では「専・兼業」「ディーラー」「自家」のいずれも増えています。
事業場数は、同比0.6%増の9万2384事業場と、こちらも3年連続で増加しています。これは自動車特定整備制度への移行で、車体整備や電装品整備、ガラス修理の事業者も認証取得に動いたことが要因となっているようです。一方、指定工場数は同比0.5%減の2万9932事業場となり、18年実績から維持していた3万台を割り込みました。また、帝国データバンクの発表によりますと、24年に入って、自動車整備事業者の倒産(休廃業・解散含む)が過去最多ペースで推移しているとのことです。24年1月~7月までに298件(倒産27件/休廃業・解散271件)が発生したとのことで、過去最多だった20年通年の418件(倒産58件/休廃業・解散360件)を大きく上回るペースとのことです。この背景には深刻化している人手不足や後継者不在、経営者の高齢化、自動車の電動化・電子化の流れに伴う自動車技術の高度化などがあるようです。
2003年~2024年 整備売上高と事業所数の推移

【ディーラーの整備要員の平均年収が初めて500万円超えに!!】
整備関係従業員数は前年比1.5%増の56万2869人と7年連続で増加しています。整備要員数は同比0.6%増の40万2025人で、うち女性は1万9335人、全体の4.8%です。また整備士数は同比0.5%増の33万3047人で、うち女性は1万567人、全体の3.2%でした。
整備要員1人あたり年間整備売上高(自家を除く)は同比5.2%増の1562万7000円となりました。業態別では、専業が同比4.3%増の1109万1000円、兼業が同9.1%増の1228万4000円、ディーラーが同4.9%増の2518万8000円となっています。
またディーラーの整備要員の平均年収は同比4.0%増の509万4000円と初めて500万円を超えたことが分かりました。しかし専・兼業との差は120万9000円と未だ格差が大きくあります。ちなみに自家を除く整備要員の平均年齢は、前年を0.2歳上回る47.4歳と高齢化が若干ですが進んでいます。
2010年~2024年 整備業界諸表

ここがPOINT!
全国の自動車整備事業者約1万7400社の経営者を対象に実施したアンケートでは、経営者の57.0%が60歳以上で、後継者不在率は59.7%となっている厳しい現状が浮き彫りになっています。後継者が見つからないまま年を重ね、ついに休廃業・解散を決断する様子が伺えます。人手不足も深刻です。22年度の自動車整備士の有効求人倍率は11年度と比べて4倍以上の5.02倍に跳ね上がっています。今回、ご紹介した通り、現在の市況は決して悪くはありませんが、先行きはかなり深刻な状況にあると言えます。
3 どうなってるの中古車輸出
【24年中古車輸出実績 日本VS韓国比較分析】
2024年、日韓の中古車輸出市場は、海上輸送の不安定さや新車供給低迷による中古車発生量の減少など共通する厳しい市場環境に見舞われましたが、終わってみれば、日本は過去最高を更新、また大韓民国(韓国)は大幅に記録を更新した前年(23年)に、わずか1万台ほど及ばなかったものの、十分健闘した一年となりました。今回は好調を維持した両国の中古車輸出実績を分析してみます。
【日韓の中古車輸出で共通する障壁】
同じ東アジアに位置し、広く世界に中古車を輸出している両国において、24年、共通して障壁となったのは、やはり海上輸送の問題だったと言えます。年明けから世界の海上輸送の要衝であるスエズ運河で、中東地域の紛争により、運航量が激減しました。これによって影響が大きかったのは韓国の方で、15年連続で仕向国トップのリビア(前年比17.5%減)をはじめとしたエジプト(同比52.6%減)ヨルダン(同比53.5%減)サウジアラビア(同比11.1%減)と言った上位国が、軒並み台数を減少させています。一方、日本側の仕向国で同地域にあるアラブ首長国連邦(UAE)は、同じアラビア海を通過するものの、紅海の手前にあることから影響は少なく、逆に2年連続で過去最高を更新し、4年振りに仕向国トップを奪還しています。
それ以外にも海上輸送については、パナマ運河の通過制限や、コンテナ輸送価格の乱高下、さらに世界の各港で滞船や延着など、海上物流が混迷して、両国ともその影響を受けた一年でしたが、この影響については、韓国の方がダメージは大きかったと言えます。
また、共通する問題としては、新車市場の低迷による中古車発生量の減少があります。日本においては、自動車メーカー各社の不祥事によって、新車が供給できず、また韓国では新車は供給できましたが、金利高や物価高による消費者心理の冷え込みによって新車が売れませんでした。それぞれ事情は異なるものの、両国とも新鮮な下取車が中古車市場に供給されなかったことが共通しています。
【日韓ともFOB価格急上昇の背景にあるロシアの存在】
日韓ともに特筆すべき点は、FOB価格の高騰です。近年この傾向は顕著ですが、24年は両国とも過去最高を更新しました。その背景にはロシアの規制対象車(規制車)の存在があります。具体的には、両国とも規制車である1900CC以上のガソリン・ディーゼル車とHVの第三国経由の再輸出です。その第三国の仕向国とは、日本の場合だと、24年に初めて10万台超えをし、ランキングも3位に浮上したモンゴル、そしてキプロス(15位)、ランク外のジョージア(23位)と一部UAE(1位)あたりかと思われます。
一方、韓国については、キルギス(2位)、UAE(4位)、アルメニア(7位)、タジキスタン(8位)、カザフスタン(10位)、アゼルバイジャン(13位)、オマーン(18位)と多くの仕向国から再輸出されているようです。興味深い点は、アルメニアです。23年は韓国から228台しか輸出されていませんが、24年は一気に100倍以上となっています。アルメニアに関しては、22年以降、欧州車や米国車の左ハンドルの中古車がロシアへ再輸出されているようですが、これに新たに韓国車が加わったのではないかと思われます。
ロシアの規制車需要に関しては、日本よりも韓国の方が高く、その分が海上輸送のダメージを補ったのではないでしょうか。

ここがPOINT!
24年世界の中古車輸出ランキングでは、欧州を一つの括りと考えますと、1位が日本で2位が米国、3位が欧州となり、4位に韓国が続きますが、その後に19年から中古車輸出をスタートしたばかりの中国が迫ってきています。24年は43万6万千台(前年比46.5%増)の中古車が中国から輸出されています。同国の中古車輸出は、EVを中心としたNEVの内需拡大のため、出口戦略として、内燃機関車を海外に押し出す目的ですが、今後、中国政府も本気になって助成金制度などを展開し促進した場合、ひょっとすると韓国だけでなく日本にとっても侮れない存在に成長する可能性があります。
2025年4月号








