業界レポート7月号 Vol.68
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- 7月1日
- 読了時間: 10分
更新日:7月2日

本レポートでは、オークネット会員様のビジネスのお役に立てますよう
大きなターニングポイントに差し掛かっている自動車産業にフォーカスした情報をタイムリーにお届けします。
執筆・編集:特定非営利活動法人 自動車流通市場研究所 理事長 中尾 聡
▼目次
【2025年4月米国への自動車輸出、追加関税の影響見られず!?】
【最新の気になる中古車流通関連ニュース】
【ロシアの現地最新情報】
1 自動車流通のトレンド
【2025年4月米国への自動車輸出、追加関税の影響見られず!?】
日本自動車工業会によりますと、4月の米国向け自動車輸出台数は、前年同月比9.8%増の12万4005台と、〝トランプ追加関税〟の影響は見られませんでした。しかし、4月3日以降、間違いなく25%の追加関税は発生しています。 果たして、この追加された関税コスト分は、一体誰が負担しているのでしょうか。今回レポートしてみたいと思います。
【予想に反して、前年同月比で1割近く増加した米国への自動車輸出】
4月の米国への自動車輸出は追加関税の反動で、大きく減少するのではと予測していましたが、意外にも前年同月比で1割近くも台数を増やし、この実績だけを見る限り影響があったとは思えません。
ちなみに4月以降も完成車を米国に輸出した自動車メーカーは、トヨタ、ホンダ、日産、マツダ、スバル、三菱の6社ですが、具体的に実績を発表しているのは、トヨタ、ホンダ、三菱で、トヨタ、ホンダの2社については、いずれも米国での好調なHV人気が台数を押し上げたようです。特にホンダについては、今年2月から埼玉製作所(埼玉県寄居町)で米国向けの5ドアのHVの生産を開始し、台数を大幅に増やしたようですが、今後は関税の影響を考慮し、米国インディアナ工場に移管する計画があるようです。三菱については、以前から人気のあるアウトランダーやエクリプスクロスの需要にのるものだと思われます。
2025年4月米国向け自動車輸出台数

【追加関税分コスト増の現実的な最終的負担者は!?】
米国への4月の自動車輸出は増加しましたが、コスト的にも25%の追加関税分は間違いなく増加しています。この関税コストの「最終的な負担者」は一体誰なのでしょうか?考えられるのは以下の3者となります。
①自動車メーカー
日本の自動車メーカーは、関税コストの一部または全部を自社で吸収しています。たとえば、トヨタは2025年度に関税負担額を約1800億円と試算しています。これは米国市場での価格競争力維持のため、販売価格への転嫁を最小限に抑える方針を示しています。
②米国の販売ディーラー
一部の自動車メーカーは、関税分を米国の販売ネットワークに分担させる形で対応しています。これは、販売奨励金やリベートの削減、仕切価格の調整などを通じて実現されますが、ディーラー側の利益が圧迫されるため、長期的には販売体制の見直しを迫られる可能性もあります。
③米国の消費者
一部の車種では、販売価格への転嫁が避けられず、最終的に消費者が負担しているケースもあります。特に、価格弾力性の低い高級モデルや限定車種では、価格上昇がそのまま反映されやすい傾向があります。
これ以外にも米国政府では、関税相殺制度(Countervailing Adjustment)を導入しており、一定の条件を満たすメーカーには、米国内での組立実績に応じた関税相殺額が支給される仕組みもあります。ただし、これは米国内での生産拡大を促すインセンティブであり、日本からの完成車輸出には直接的な恩恵は少ないと見られます。
以上のような可能性が考えられますが、現実的には多くを自動車メーカーが負担しているのが実態ではないでしょうか。
ここがPOINT!
トヨタの米国内販売は、追加関税導入前に輸出されていた車両で6月まで凌いでいたようですが、その在庫も底をついたとのことです。いよいよ予算化した1800億円を活用するタイミングに入りました。現在、日米交渉は難航しています。特に自動車の追加関税の見直しは長期化の様相を呈してきました。いずれ国内か、もしくは米国以外の仕向け国への振り替えを真剣に考えなければならない時期にきていると思います。
2 中古車流通のあれこれ
【最新の気になる中古車流通関連ニュース】
今回は、最新の気になる中古車流通関連のニュースをトピックス的に2件紹介させていただきます。
【米国がイラン攻撃参戦を匂わすことで日本の中古車相場に影響が!?】
6月13日、イスラエルがイランに攻撃を開始してから、中東では再び緊張が高まっています。トランプ大統領は、この攻撃が始まった直後、イスラエルを支持しながらも「攻撃に米国は関わらない」と断言していました。ところが発言は日を追うごとに移り変わり、攻撃的なトーンが強くなって、18日にはイラン攻撃を「やるかもしれないし、やらないかもしれない」と参戦に含みを持たせ、今後2週間以内に決定するとしています。この発表の前後から、日本のオークション会場では、中古車輸出仕向国トップであるアラブ首長国連邦(UAE)と同じく上位国のパキスタンの仕入れがパタッと止まったと言います。それにともなって、両国向け車種の相場も急落傾向にあるようです。
仮に米国が参戦した場合、UAEはホルムズ海峡を挟んでイランの対岸の国ですし、パキスタンもイランの隣国ですから、とても日本から中古車を輸出できるような状況にはならなくなります。G7の初日16日にトランプ大統領は急遽帰国しました。この理由は、パキスタンのシャリフ首相との間で電話会談があったからだと言われています。その内容は米国が参戦すると、イランから多くの難民がパキスタンに流れてくるが、その中から、いかにテロリストを阻止するかといったものだそうです。このような話を聞くと米国の本気度が伺えますが、今後の米国の動向に注視する必要があります。

【中古車の放射線量検査の気になる行方】
現在、港での中古車放射能線量検査をめぐり、7月に全国各地の港で混乱が起きる可能性が高まっています。もともと、この検査は11年の東日本大震災による福島第一原発事故によって、放射性物質が環境中に放出され、一部の中古車にも放射線が付着している可能性があると懸念されたことで、港湾関係者の安全確保のために、11年8月から日本港運協会と全国港湾労働組合連合会、全日本港湾運輸労働組合同盟が「暫定確認書」を合意して始まりました。
ただ、現在では原発事故から時間が経過していることもあって、高線量の車両はほとんど見つかっておらず、政府は今年1月、「事実上もうこの検査は必要ない」との見解を示しています。また、この検査費用の賠償を負担していた東京電力も6月末で廃止する方針を関係者に伝えています。しかしながら、港湾労働団体は「港湾労働者の健康を守るために検査は続ける方針だ」としています。ちなみに検査料は地域毎で異なりますが、1台700円~1500円程度ですから、年間数十億円にもなります。輸出事業者の組合である日本中古車輸出業協同組合と陸送事業者の団体である日本陸送協会は、「7月以降検査料の支払いはしない」と港湾労働団体に申し入れをしましたが、労働団体は「検査料を支払わない事業者の車両の港への搬入を拒否する」とし、真っ向から対立していました。6月中旬には、「やむを得ず検査料を支払った場合、検査団体などに検査料の返還を請求し、応じない場合は民事訴訟で訴える」として、取り合えず実力行使は回避する方向にはなったようですが、今後、長期的な法廷闘争も考えられ、行方が気になるところです。

ここがPOINT!
今回、ご紹介したトピックスは、いずれも中古車輸出に関するものですが、近年は何事にも中古車輸出の影響力が大きく、中古車流通全般に良くも悪くも影響が及びます。今回の件では、世界における日本の中古車需要がなくなったわけではなく、いずれ回復するのは明らかです。問題は動向を注意深く見守って、柔軟に対応を図っていくことだと思います。
3 どうなってるの中古車輸出
【ロシアの現地最新情報】
事実上戦時下にあるロシアのウラジオストクへ昨年10月に市場調査を敢行した業界関係者が、今年5月にも再び現地に渡航し調査を実施しました。(前回の様子はVol,60,61で紹介)今回も最新の情報を聞くことができたので、匿名を条件にお伝えします。
【新車ディーラー街に大量に展示されていた中国の新車が。。。】
前回現地を訪れた際、「一般市民の日常生活は以前(侵攻前)と比べると意外にも改善されていて、街全体が戦時下とは思えない活気さがあって驚いた」とコメントしてくれました。それから半年が経過し、今回は政策金利が過去最高の21%に引き上げられ、インフレ率も9.5%と高水準になった状態での訪問となりましたが、これらの変化によって市民生活に影響が出ているかと尋ねてみたところ「多少選択肢は減ったものの、生活必需品は問題なく入手できているし、確かに物価高との印象は受けたが、サラリーもそれに見合うだけ上昇しているようで、昨今の状況に不満が生じているようには感じられなかった」とのことです。ただ前回も見かけた“兵士になって豊かな生活を送ろう”と言った兵士募集の看板が増えていたことや、前回はまったく聞かれなかった話として、“知人や友人が戦闘で戦死した”と言う話が現地の関係者から複数聞かされたとのことで、やはり戦況の長期化の影響は出ているようです。
肝心の自動車流通関連について前回と異なった点を聞いたところ、最も驚愕したのは新車ディーラー街で大量に展示されていた中国の新車が一気に消えたことを挙げました。22年の侵攻以降、西側諸国の自動車メーカーが撤退し、代わりに中国の自動車メーカーが参入してきたのは既成の事実ですが、もともと極東地域では中国車の人気はなく、あくまでも需要があったのはウラル以西で、新車ディーラー街で展示されていた新車は一時的にストックヤード的に置かれていたのではと考えられます。ただこのウラル以西の需要も今年に入って1~4月の累計実績が前年同期比で半減し、大手中国車メーカーの中には、ロシア事業を見直す動きが出ていると直近の日本の新聞でも報道されています。
【ロシアのナンバープレートが日本規格を導入 その意味することは】
ロシアに向けた日本の中古車輸出も昨年11月のリサイクル税の引き上げや、ロシアの金融機関への米国の追加経済制裁によって、減少傾向にあるものの、中国の新車ほどの低迷ではなく、実際に街並みを走る車や、グリーンコーナーからウラジオストク空港周辺に移設した大型中古車展示場「オートポート」(画像①参照)を視察しても、日本から輸入された中古車が圧倒的なシェアを誇っていて、極東地域の主役は現在もこれからも日本の中古車だと確信したといいます。

またこの確信を裏付けるような現象を今回新たに発見したとのことです。それはナンバープレートで、本来、ロシアは地域的には欧州に分類されているため、以前から枠組みは横長の欧州規格(横52cm×縦11cm)が採用されていました。(画像②注②参照)前回はまったく気が付かなかったのですが、今回、街を走る多くの車に日本規格(横33×縦16.5cm)のナンバープレートを取り付けた車を見かけたとのこと。(画像②注①参照)

これは恐らく極東地域に限った対応かと思われますが、無理やり日本の枠組みに欧州規格を取り付けるより、日本の枠組みに合わせた方が見栄えも良いし、合理的と考えたからだと思いますが、これはドラスティックな変化です。これが意味することは、今後も日本の中古車が恒久的に輸入されてくることを前提にあるからだと言えるでしょう。ちなみに画像②注③のナンバー無の車両は、最近日本から輸入された車両です。同国では、通関から登録までの1週間はナンバー無でも公道を走行することが許可されています。恐らくこの車両も数日のうちに日本規格のナンバーが取り付けられることでしょう。
ここがPOINT!
業界関係者一行が帰国して間もなく、ロシア極東の沿海地方政府はウラジオストク近郊のデサントナヤ湾付近で2回の爆発があったと発表しました。ウクライナの複数のメディアも同国の国防省情報総局が作戦を実行したと発表しています。残念ながら、こうして戦域は拡がり、戦況も終結する気配がありません。それでも日本の中古車に対する旺盛な需要は、変わることはなさそうです。
2025年7月号






