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業界レポート9月号 Vol.70

更新日:9月2日


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本レポートでは、オークネット会員様のビジネスのお役に立てますよう

大きなターニングポイントに差し掛かっている自動車産業にフォーカスした情報をタイムリーにお届けします。


執筆・編集:特定非営利活動法人 自動車流通市場研究所 理事長 中尾 聡


▼目次


 【米国向け輸出自動車に課せられた追加関税25%の影響】


 【ガソリンスタンドの減少が続く中、ガソリン税暫定税率廃止によって。。。】


 【2025年中古車輸出上期の振り返り】


1 自動車流通のトレンド


【米国向け輸出自動車に課せられた追加関税25%の影響】


 難航していた日米関税交渉ですが、25年7月23日に両国政府は、25%になる予定であった相互関税を一律15%に引き下げることで合意しました。また日本側が最重要課題として取り組んでいた自動車関税についても、すでに現在、追加関税25%が上乗せされ乗用車が27.5%、トラックが50%とになっているものも一律15%に引き下げるとしています。しかしながら、自動車関税の適用時期については、7月下旬の合意から50日となる9月中旬になるとしています。今回は4月から6月までの四半期で、実際に自動車に上乗せされた追加関税25%が、どれほどの影響を及ぼしたのかを、改めて考えてみたいと思います。



【追加関税が課せられた4月~6月期中、台数はわずかに増加したものの。。。】


 まず米国への輸出台数の影響ですが、関税が引き上げられた4月以降6月までに日本から米国へ輸出された自動車(新車のみトラックを含む)は34万7573台で前年同期比では2.8%ほど上昇しました。自動車輸出全体は、ほぼ前年並みでしたから、米国向けはそれを上回る結果となっています。それに伴って輸出全体に占める米国の割合も33.9%で前年を0.9%ほど上回り、コロナ禍から回復を遂げた23年と比較しても1%上回っています。これらの実績を見る限り、台数的にはマイナスではなく逆にプラスに転じています。

 しかしながら、4月3日以降に米国に輸入された自動車には25%の関税が追加されていますから、間違いなく大幅にコストアップしています。現地の情報によれば、日本から輸入された自動車のほとんどは、価格は据え置かれているとのことですから、そこには逆ザヤ分が発生し、ユーザー以外の誰かが負担を強いられています。米国ディーラー側も販促費や在庫リスクを負担するなどしているようですが、結局のところ、負担の多くは日本側のメーカーのようです。それがどれほどのものであったか、先般トヨタ自動車が発表した25年4~6月期連結決算(国際会計基準)から垣間見ることができます。


4~6月米国への輸出台数 直近3ヵ年の推移

出所:日本自動車工業会
出所:日本自動車工業会

【トヨタ自動車では1時間に3.1億円ずつ損失が。。。】


 日米関税交渉を担当する赤沢経済再生担当大臣は、交渉の中で再三『日本の企業の中には、追加関税によって、1時間に1億円ずつ損失が出ている企業がある』と発言をしていましたが、まさにこれはトヨタ自動車のことを指すのかと誰もが思ったのではないでしょうか。

 実際に同社の25年4~6月期連結決算(国際会計基準)をみますと、売上収益は連結販売台数が伸びたことで、前年同期比3.5%増の12兆2533億円となり、4年連続で過去最高を更新していますが、営業利益は同10.9%減の1兆1661億円で3年ぶりの減益となりました。また当期利益に関しては、実に36.9%減の8413億円まで落ち込んでいます。期中に日米金利格差が縮小し、一時140円を切る場面もあり、為替で1650億円の下振れ要因となっていますが、やはり最大のマイナス要因は追加関税による影響です。影響額について同社は、期初に4、5月だけで1800億円と見積もっていましたが、実際には4500億円にも膨れ上がったとのことで、これを時間単位に換算しますと1時間で3.1億円の損失となって、赤沢大臣発言の実に3.1倍にも膨れ上っています。


トヨタの25年4~6月期連結決算と通期見通し(国際会計基準)

単位:億円、()内は前年同期比%
単位:億円、()内は前年同期比%

 期中におけるトヨタ単体の米国向け輸出台数は、前年同期比14.6%増の14万9073台と全体を押し上げていますので、他メーカーは前年並みか、もしくは多少下回っている状況であり、程度の差はありますが、追加関税によって、いずれのメーカーも利益を大きく圧迫したことは紛れもない事実だと思われます。


ここがPOINT!


 大手メーカーでは、FOB価格を調整してまで、追加関税を吸収していると聞きます。どこまで調整しているかは定かではありませんが、利益をまったく度外視しています。ここまでしても、台数を維持する背景には、米国市場でのシェア維持を最優先と考えているからだと思われます。そしてその先には、損失回収の為、米国内で生産比率を高める狙いがあるのではないでしょうか。そうなると国内産業の空洞化という深刻な問題に直面します。そういった意味でも、関税を巡る自動車メーカーの今後の動向には注視する必要がありそうです。

 

2 中古車流通のあれこれ


【ガソリンスタンドの減少が続く中、ガソリン税暫定税率廃止によって。。。】


 資源エネルギー庁は7月30日に、24年度末の全国のガソリンスタンド(以下SSと略。SS=サービスステーション)数が、前年度末に比べて1.5%減少したと発表しました。話は変わりますが、先般の参議院選挙の結果を受け、年内にはガソリン税の暫定税率が廃止される見込みです。今回、かなり強引なのですが、これらの事象によって、現在、低迷している国内中古車小売で、需要が高まるのではと、仮説を立ててみましたので紹介させていただきます。また今回、この機会にわかっているようでわっていない暫定税率廃止の内容も併せてレポートしてみます。


【SS数は30年連続で減少。重要さが増す油外収益事業への取り組み】


 SSの数は、前年度から405ケ所減り2万7009ケ所となりました。95年から30年連続の減少となり、歯止めが掛かりません。ちなみに94年には6万421ケ所ありましたから、今や半減以上となっています。この減少の主たる要因としては、EV・HVの普及による、ガソリン消費量自体が減少していること。また若年層の車離れや都市部の公共交通依存により、需要が長期的に減少傾向にあること。一方では事業者の高齢化と後継者不足の問題に加え、設備更新や法令対応(地下タンクの防災基準など)にかかるコストが重くのしかかり、特に地方で、個人経営のSSの廃業がこのところ相次いでいます。

 

SS拠点数の推移

出所:資源エネルギー庁
出所:資源エネルギー庁

 近年の傾向として、SSと中古車ビジネスは親和性が高いこともあって、単に燃料販売だけに頼らず、積極的に中古車ビジネスなど油外収益事業を展開しているSSが増えています。言い方を変えれば、そのような展開をしているSSが生き残っているとも言えます。

 さて、先般の参議院選挙の結果を受けて、近々暫定税率が廃止される見込みです。ガソリンでは約1割程度、価格が安くなります。たかが1割ですが、されど1割であり、消費者においては、家計負担を軽減し、法人でも特に物流業などでは、経費負担を軽減します。このところ何もかも物価が高騰して、車買い替えを据え置いていたユーザーにとって、この機会は絶好のタイミングになるのではないでしょうか。特に関連性が高いSSにおいては、給油での来店頻度が高いのですから、PRなどを充実させ、廃止前後にキャンペーンなどイベントを展開すれば、需要が高まるのではと期待しているのですが。。。かなり強引だったでしょうか。


【暫定税率の内容と廃止の時期】


 今回の暫定税率ではガソリンがℓ当たり25.1円、軽油では17.1円が廃止されます。ただ、いずれもこのうち10円は、これまで政府の補助金が充てられていて、その分は相殺されますから、実質ガソリンが15.1円、軽油で7.1円安くなると言うことです。ちなみに灯油には暫定税率は含まれていませんので、安くはなりません。

 日本の場合、表にも示した通り、燃料には多くの税金が掛かります。何故ならば、高度経済成長を支えた道路整備も世界的な環境対策も燃料消費に大きく起因していることから取りやすいと言う点と、国にとっては、徴収が容易で税収が安定するというメリットがあるようです。

 ところで、今回の暫定税率廃止に伴う税収減は年間で約1.5兆円規模(ガソリン+軽油)と見込まれており、政府・与野党ともに「恒久的な代替財源の確保」が不可欠と言う共通認識はあるようです。ただ6月に提出された法案は参議院で継続審査されず、事実上廃案となりました。現在も新たな法案提出に向け、与野党間で協議は継続していますが、合意には至ってなく、現時点では当初予定されていた11月1日廃止は難しい状況です。どの時点から廃止になるのか、今後の与野党間の協議に注目していきたいと思います。


ガソリン価格に含まれる税金の内訳

ガソリン税(本則+地方+暫定)だけで54.6円/L、さらに石油石炭税と消費税を加えると、1Lあたり約70円前後が税金になる。
ガソリン税(本則+地方+暫定)だけで54.6円/L、さらに石油石炭税と消費税を加えると、1Lあたり約70円前後が税金になる。

軽油(ディーゼル燃料)の価格に含まれる税金の内訳

軽油の場合は、合計税額:約35円/Lで、うち暫定税率分が17.1円/L
軽油の場合は、合計税額:約35円/Lで、うち暫定税率分が17.1円/L

ここがPOINT!


 今年の中古車流通は次項でも紹介している通り、中古車輸出は絶好調に推移していますが、国内小売に関しては、大手は健闘しているものの、中小はかなり低迷しています。今後もなかなか上向く要素が見当たらない中、かなり強引だったかとは思いましたが、暫定税率廃止による中古車需要の喚起を期待してみました。


3 どうなってるの中古車輸出


【2025年中古車輸出上期の振り返り】

 財務省の貿易統計によりますと、25年上期の中古車輸出台数は、統計を開始した02年以来、初めての80万台超えとなる82万5771台を記録しました。これで上期については、3年連続で過去最高を更新するなど、近年の中古車輸出の目覚ましい成長ぶりを改めて認識させる実績となりました。今回は、この好調の要因を分析してみます。



【好調な中古車輸出を支える4つの要因】


  中古車輸出の好不調を左右する大きな要因としては、仕向国の動向、日本国内の中古車発生量の動向、さらに海上輸送と為替の動向と言った点が挙げられます。従って、この4つのポイントに絞って、上期を分析してみますと。。。


①スリランカとアフリカ勢が大健闘

 仕向国の動向としては、まず5年振りに中古車輸入を解禁したスリランカの躍進が挙げられます。上期だけ(実質稼働期間は4ケ月)で、同国へ1万9917台が輸出されましたが、前年実績(33台)は、ほとんどないため、今年の実績分が、ほぼ丸ごと全体を押し上げています。輸出された車両の主流は製造から24ケ月前後の1000~1500CCクラスですが、軽自動車も6431台、割合にして32%も輸出されていることは、大変興味深いことです。またFOB価格も高年式が多いため約250万円と高額です。ちなみにこの額とほぼ同額が税収(関税等)として、同国政府の歳入となり、経済の立て直しに大きく貢献しているとのことです。

 あとアフリカ地域で多くの仕向国が台数を大きく伸ばしました。タンザニア、ケニア、ウガンダなど右ハンドル国はもとより、ナイジェリア、ガーナと言った左ハンドル国が飛躍的に台数を伸ばしています。同地域には上期20万7345台が輸出されましたが、これは前年同期と比較すると、4.4万台も多く、また全体に占める割合も前年同期が21.1%に対し今年は25.1%となり、4ポイントも上昇しています。ちなみに中東のアラブ首長国連邦(UAE)も上期は台数を大きく伸ばし、13万911台が輸出されましたが、このうち10万台は業販ルートとしてアフリカ諸国へ再輸出されています。従って、台数にすると30万台、割合にすると実に36%がアフリカ地域に輸出されたことになります。こうした傾向は、同地域が今や「地球最後のフロンティア」と呼ばれ、豊富な鉱物資源の開発を背景に、近年、急速な経済発展を遂げていることにあるでしょう。


②中古車流通量の拡大と中古車小売の低迷が輸出には追い風

 前年(24年)の上期は認証不正問題によって、国内の新車販売が大きく低迷し、それに伴って下取車の発生も少なく、中古車流通量は減少しました。一方、今年は販売が回復したことで、流通量は拡大し、輸出を押し上げています。さらに、前年は新車が供給されなかったため、国内の中古車小売の需要が高まりましたが、今年はその反動もあって小売りは低迷しており、競合となる相手が不振であることから、輸出には追い風になりました。


2024年vs2025年上期(1月~6月) 中古車輸出台数実績比較

出所:財務省貿易統計
出所:財務省貿易統計

③海上輸送は供給、運賃ともに安定化

 前年は中東情勢の悪化による航路迂回や、それに伴うハブ港での滞船などで、RO-RO、コンテナともに供給が不安定で、またコンテナについては運賃が乱高下するなどマイナスの面がみられましたが、今年はいずれも供給は安定し、コンテナ運賃も年明けから下降局面に入るなど、輸出にはプラスに貢献しています。


④為替は輸出に有利な円安基調で推移

 今年は年明け1㌦=157円と輸出には有利な円安でスタートし、4月下旬には日米金利格差縮小によって、一時1㌦=140円を切る場面もありましたが、その後は再び円安に展開し、輸出には有利に働きました。


ここがPOINT!


 下期についてですが、このところ低迷しているロシア、モンゴル、ニュージーランドと言った上位国の動向は気になるところですが、今回ご紹介したような好調国が依然強い勢いがありますし、中古車発生量も上期ほどではありませんが拡大が見込まれ、海上輸送、為替ともに不安材料はないことから、通年で中古車輸出台数は初の160万台超えが見込まれ、最終的には165万台前後まで伸ばすのではないかと分析しています。

2025年9月号

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