フォード・マスタング①【思い出の車列伝】
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- 5月23日
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米国人の心の拠り所
カッコいいアメ車
●フォード・マスタング
1964年、鮮烈なデビューを果たしたマスタング。
当時高校生だったテリー伊藤さんも、お兄さんと一緒になって熱狂的に憧れた!
約60年、7代にわたるその車の変遷に、今、何を思うのでしょうか。
Interviewer: Koichiro Okamoto (Motor Joumalist)
Photographs: Katsuaki Tanaka
夢のまた夢が円高で激安に
日本撤退が残念でならない

登場した時のことは鮮明に覚えているよ。当時、僕は高校生で、兄貴がこんなクルマが出たと色めき立っていた。もちろん買えるはずもなく、夢のまた夢だったけど、アメ車としては手頃なサイズでカッコよくて、ものすごく憧れたものだよ。『ブリット』という映画でスティーブ・マックイーンが乗る雄姿にもホレボレした。
その後出たドーンと大きくなった「マッハワン」も迫力満点でカッコよかった。
ところがモデルチェンジすると、オイルショックの影響でずいぶん控えめになった。当時は日本車でもスカイラインとかみんなそうだったけど、すっかり牙を抜かれてしまったよね。その次の3代目は雰囲気がガラリと変わって、正直あまり印象に残っていない。
そういえば、いつのまにか「マスタング」と呼ぶようになったけど、最初は「ムスタング」だったよね。
マスタングが再び脚光を浴びるのは4代目だ。見た目も往年のマスタングっぽい雰囲気がよみがえってきたし、当時は円高だったおかげでとにかく値段が安かった。マスタングもライバルのカマロも日本車なみの200万円台前半から買えたよね。
そして大好きな5代目は、初代のイメージを現代的に再現したデザインが最高だ。乗るともっとアメ車っぽくゆったりドライブできるのかと思ったらそうでもなかったのは意外だったけど、いかにもなV8サウンドも最高だったよ。
それほど昔の話じゃない気もするけど、思えばもう20年もたつんだね。でもたまに見かけてもぜんぜん古臭く見えない。むしろ履き込んだジーンズが色落ちして味が出てカッコよくなるのと同じような感じがするよ。
5代目に乗っている人にはぜひ大事に乗り続けてほしいし、これから買おうという人も自信を持って買っていいと思う。
ところが次の6代目の途中でフォードは日本から撤退してしまった。初めて右ハンドルも選べるようになって、まさにこれからというときに本当に残念でならないよ。
小柄で安かったら
欲しいという人は
いっぱいいるはず
マスタングというのは強いアメリカを象徴するようなクルマだから、アメリカ人にとって、いわばカントリー&ウエスタンのように心の拠り所になっているんだと思う。
もともとは若者でも買える魅力的なクルマを目指して生まれたけど、いまやマスタングに乗ることは愛国心の表れという側面もあると思うよ。
「ムスタング」でも「マスタング」でもいいけど、名前の響きもいいよね。ボディカラーだって濃い目の色も似合うし、イエローとかレッドとかブルーのソリッドな色もマッチョなスタイルによく似合う。
マスタングのようなアメ車が好きな人は、実は日本にもいっぱいいる。でもやっぱり持て余しそうでなかなか買えない。
そんなせっかくのアメ車を日本でも売れるようにするために、トランプさんに提案したいことがいろいろある。右ハンにするだけじゃドイツ勢にはぜんぜんかなわない。もっと得意なところを有効活用すべきだ。
フォードにはマスタングやエクスプローラーもあるし、他にもジープやキャデラック、コルベットやアストロなど、日本人にもおなじみのビッグネームがたくさんある。だから、それっぽいデザインにして少し小柄にして安く売れば、欲しいという人はいっぱいいると思うんだよ。
日本のデリカミニがいい成功例だ。うまく名前とイメージを活用すればいい。もしラングラーミニが出たら、ジムニーを買っていたような人たちは飛びつくよ。
マスタングはそれこそ初心に帰って若者でも手が届く価格とスペックにして売ればいい。もちろん後輪駆動で、オープンも大歓迎だ。実はGR86やロードスターぐらいの手頃なスポーツカーはアメリカでも日本でもけっこう売れているんだから、そこを狙い撃ちすればいいんだよ。リトルマスタング、出してくれないかなー……。
歴代マスタングをご紹介!
フォード・マスタングの変遷
●初代
(写真上:前期1964年~1968年/写真下:後期1969年~1973年)
発売当日だけで約2万2,000台を受注するや、その後も驚異的な売れ行きで、わずか1年11カ月で100万台を販売したという。ベース車の価格を抑えて膨大なオプションを好みで選べるようにした「フルチョイスシステム」も好評を博した。全長約4.6m、全幅約1.7m、全高約1.4mと日本車並みのサイズで、エンジンはV8と直6を搭載。モデルライフ中に何度か大きくデザインを変更している。1971年に通称「ビッグ・マスタング」が登場。
●2代目
(1974年~1978年)

オイルショックによる大型車離れを受けてボディサイズやエンジン排気量のダウンサイジングを図り、4気筒エンジンも設定された一方で、後年には「コブラ」を名乗る高性能版も投入された。
●3代目
(1079年~1993年)

時代が大きく変わった80年代には、歴代モデルとは一線を画する直線基調のユーロデザインを採用。初めてターボエンジンが搭載された。事情により歴代最長のモデルライフとなった。
●4代目
(1994年~2005年)

5代目ほどではないが、初代の面影が感じられるデザインに回帰し往年のファンが歓喜した。エンジンは5.0Lor4.6LのV8と3.8L V6で、価格の安さも効いて日本でも人気を博した。
5代目
(2005年~2014年)

新開発プラットフォームをベースに、当時のフォードの「リビングレジェンド戦略」に基づき初代を意識したデザインを採用。エンジンはいずれもSOHCの4.6L V8と4.0L V6を搭載。
6代目
(2014年~2022年)

キープコンセプトで、5代目に対し全幅が38mm拡大し、全高は36mm低くなった。直4ターボの「エコブースト」の搭載や、歴代初となる右ハンドル車の設定などが特徴。2016年にフォードは日本撤退。
7代目
(2022年~)

同じくキープコンセプト。機械式ハンドブレーキの機能を備えた「電子ドリフトブレーキ」の採用が特徴。2023年にはレーシングカーのGT3の公道仕様となる「GTD」が発表された。
Photo by Ford Motor Company
オークマン2025年6月号掲載記事










